御対面 (1/2)
周りは念入りに確認したが、大丈夫みたいだ。避難していた人がほとんどだったようだ。最初に確認しているべきだったが、衝撃があったであろう天人とか、車の中にいるだろう、特にかぐや姫の方が気になる。
かぐや姫、あなたさえ、無事なら僕の心には平和が訪れます。
会ったことはなく、どんな姿なのか分からない人に思いを馳せた。そして、少しでも良く見て貰おうと、心配から震える体を治めるために深呼吸して言う。
「中の方は大丈夫ですか?」
しかし、待ち望んだ瞬間は訪れなかった。中には王と思われる天人しかいない。かぐや姫がいない。どういう事だ。なぜかぐや姫は中にいないんだ。僕はまだ話に関わってほとんど経っていないはずだから、内容が変わっていることは考えられないのに。かぐや姫は中にいるはずなのに!
「かぐ」「わっ!」「うわっ!」「あははっ、びっくりした?」
後ろから急に声がし、驚き振り向いた瞬間僕は、あぁ、この人こそが僕が想っていた人なのだろうと分かった気がした。
この世に男として生まれたならば、意識せずにはいられない絶世の美少女がそこにはいた。
艶やかで、絹のようで、どこまでも変わることのない黒の髪に、日本人風に整った顔立ち、160程と思われるその躰には、着物の上からでも分かる、男なら目を固定される凹凸のくっきりしたラインがある。露わになっているその肌は薄く積もった柔らかい雪のようだ。そんなまさしく大和撫子を体現したかのような少女がこちらを上目遣いに見ていた。 それは男に生まれた者全て、いや老若男女全ての思考を止めるには十分過ぎるほどの魅力だった。実際、その場の誰もが、息すらも止めその少女をただ見詰めていた。
あれ? しばらく彼女を眺めていた僕はここで二つの違和感に気付いた。一つはすぐに分かったが、言語だ。古典的な口調になるはずだが、お互いに通じている。これはかぐや様が付けてくれたスキルだろう。 しかし、それよりもかぐや姫の美しさが、竹取物語が書かれた時代とは遠く離れ、現代を生き、美の感覚が異なるはずの僕に美しいと感じさせることだ。もしかしたら、かぐや姫の美しさというのは現代よりだったが、それでもなお、当時の人々を魅了するには十分だったのではないだろうか。
「急に考え込んでどうしたの?」
か、可愛い! 美しいとも言える。そんな風に覗かれたら嬉しすぎる~。表現出来ないよ。
「だ、大丈夫です!」「そう? なら良し! 何はともあれ、助けてくれてありがとう!」「い、あ、え、どどういたしまして!」
呂律が回らない。僕の緊張に気付いているのか、かぐや姫は僕にやたら顔を近付けて話してくる。つい、背けたくなってしまう。
「あ、あの、かぐや姫はどんな罪を犯して地球に下りて来たんですか?」
すると、急にかぐや姫は俯き、周囲の空気が濁り始めた。彼女がもたらすそれは、人間ではなし得ないものだった。 彼女は腰に手を当て、胸を張ると
「えっへん! 私、まずね、自分でこの地に下りて来たんだ」「えっ、えっ~!!!」
今までの空気は一体どうしたというほどの切り替わり。そして、この物語の根底を揺るがす事態が判明。 どこからか、聞き慣れたどっかの神様の声すら聞こえてきた。
これは、元からなのか、それとも僕が関係しているのか。どっちなんだ? 誰も答えられないが、聞きたくなった。
「永遠とも言える命を持っている私たちに与えられた時間は物凄く長かったんだ。今は一度下界に下りた事で短くなっているんだけどね。月の世界にも街とかが広がっているのだけど、そこで友達と話している時に聞いてしまったんだ、下界って楽しいらしいと」