第4話 王女イデア・アールム (1/2)

その廃墟はかつて玉座の間と呼ばれた場所であった。

時には叙勲に、時には王の話に、多くの家臣たちが集う場所。

太い柱が何本も立ち並び、床も壁も顔が映り込むほど磨き上げられ、国の象徴である朱色の絨毯がまっすぐに敷かれた権威の間。それが一瞬にして崩壊し、焼け焦げ、決して見えるはずのない青い空が頭上に広がり、陽光に照らし出されていた。

第三王女イデアは一人、その中に佇んでいた。

やっと暖かくなってきた。

種まきの準備、秋に妊娠したヤギや羊の出産も気にかけなければいけないし、馬などは今からが繁殖の時期に差し掛かる。一番大事な時期になぜこんなことが起こらなければならないのか。

分からないことが多すぎて、気が付くとこの元大広間に足が向かっているのだった。

褐色の肌に黄色い瞳、高い魔力を示す虹色に輝く束ねられた長い髪が王家の者であることを示している彼女は18歳になったばかり。本来であれば絢爛豪華ではないにせよ良い仕立てのドレスを身にまとい、午後のお茶などを楽しんでいたはずだった、それとも、こっそりと抜け出して農場に行ったりしてメイド長のキャロラインからお小言を頂戴していたのかも。

病に伏した魔王であるお父様がこの世を去った、その日にすべて失われてしまった。

『大災厄カタストロフ』。

異世界から邪悪なるものを召喚して敵を滅ぼすという、恐るべき禁忌の大魔法。

行使した人族が納めるアープス法皇国の密偵からあらかじめ知らせを受けて民間人は避難していた。とはいえ、街のほとんどが破壊され、農耕地や牧場なども元に戻すには気が遠くなるほどの時間と手間が必要となるのはイデアも理解していた。

「頑張るしかありませんわよね」

感傷に浸る雰囲気を台無しにする空腹の音に返事をして、両手を組み合わせてひと伸び。

「姫様、ここにいらっしゃいましたか。……また、そのような格好をなさって」