第5話 魔王国国王カルブンクルス (1/2)

「姉上、こちらにおられましたか」

食後の温かい『コーヒー』を味わいながら、これからのことを思いめぐらせていたイデアはふと我に返る。

「これはこれは国王陛下、かようなところにいかがなさいましたか?」

優雅に立ち上がり、ないドレスの裾をつまんで会釈をした。

「いじめないでください……しかし、『ツナギ』のお姿もよく似合っておられる」

副官のブレンテンを伴って食堂へと姿を現した双子の弟であるカルブンクルスは苦笑しながらテーブルの向かいに腰を下ろした。

イデアの虹色に相反して彼の髪色は黒。ほかの属性を打ち消してしまう闇精霊の強すぎる加護によるものであるが、かわりに明晰の頭脳と抜群の身体能力を有していた。魔力至上主義の風習の残る魔王国において意地の悪いことを口にする者もいるが、アカデミーを首席で卒業し、近衛師団長のブレンテンを相手に良い勝負をする剣術の腕前はイデアにとっては自慢でしかなく、実際、彼以上に国王としてふさわしい者も考えられなかった。

しばらく病床に伏していた父の代わりに政を行っていたので、急に即位しても大きな混乱はないように見えるが……。

「異界からもたらされた物がすべての救いですね」

『コーヒー』のカップを口に運ぶ彼もまた青い『ツナギ』を身にまとっていた。

汚れにくく、湿気が籠らず、すぐに乾き、水をはじく、魔法の布で作られた上下一体となった衣服。『ジッパー』と呼ばれる開閉部品でポケットに入れた物などの落下を防ぎ、驚くことに右脇の下からひざまでの横側に大きく走るそれを開放することで着たまま用を足すことができた。

「今の我々には過ぎた物とは理解していますが、復興までの間は存分にお力をお借りしようと考えておりますよ」

「すべては陛下の御心のままに、ですわよ。思った通りにおやりなさいな。それで……」

食べるものと着るものは確保できたが、街の復興はそう簡単にはいかない。

いくら魔法が万能な力とはいえ、土魔法では人工の建造物や石畳などはどうすることもできなかった。だからこそ魔王国には高い建築技術を持った職人たちがいるのだ。