第6話 兄より優れた弟は存在しない (1/2)

チチチと鳴いた小鳥が空高く飛んでいく。

良い気候になったものですわね、そう思えるくらいには気分が戻ってきた。

「いいお天気ですわねー」

キャロラインと数名の護衛を連れた復興視察の足取りも軽い。

伸びをしながら渡る跳ね橋を越えればすぐに貴族たちが王都で住まう場所。そこを抜けると職人街だった。鍛冶や陶芸、金物、服飾、芸術、あらゆる新しい技術を磨くために国中から職人たちが集められている。そして、売り買いをする仲買人、様々なものを売る店、その家族たち、それを相手にする飲食店などが、城壁の中に建てられており、その外側には農地と牧場が広がっていた。

「王都を移すお話はどうなったんですの?」

ここより馬車で東に4日の中央都市チェントロに王都を移す話は、先王が床に伏したあたりから活発に議論させるようになっていた。王城もあり貴族たちの住まう屋敷もあり、街の規模は王都よりもはるかに大きい都市である。これを機にと考える者は多かった。

「そのことなのですが……」

キャロラインが言いにくそうに、

「ヴィロス殿下が難色を示されていまして」

「大声で回りに当たり散らして反対、かしら?」

第二王子のヴィロスは14歳。文武はそれなりに優秀ではあるが、幼少時に熱病で命を落としかけてから周りの者が甘やかすので実力以上の過大な自己評価をしてしまっていた。どこかで大怪我をしない程度に良い切っ掛けがあればと思う家臣たちは少なくない。

「プライドは王族の宝とは申しますけれど、磨かれた台座に飾ってこその宝。振りかざして民がついてくるものですか」

先日もカルブンクルスにかみついていた。

『国民は王都の蹂躙をなすすべなくうつむく姿に落胆し、他国は兄上を腑抜け腰抜けと嗤っております! 今こそ挙兵を!』

どこかで聞いた戯曲の一節なのだろうか。あまりにもおさまりが良すぎて吹き出してしまった。

挙兵なんて気軽に口に……。

「……挙兵なんて気軽に口にするもんじゃぁないぞ」

塀の向こうから聞こえるこの声は異界人のリーダー、オーガストである。