第9話 頑張るという事 (1/2)
大きな音を立てて瓦礫の山が崩れる。
街の改修工事をやっていた一同が騒然となった。
「イエラキ様ー、お力をお貸しくださーい」
全身甲冑の青銅の巨人姿に戻って、積み木のよう教会を建造していた彼の足元に衛兵が駆けてきた。
「何人か下敷きになってしまったみたいなんです」
イエラキはうなづくと衛兵を肩に乗せ大股で現地へと向かった。
現場は瓦礫が集積された場所。ミズキが石材、鉄骨、貴金属などに物質を再構築している、いわば再生工房のような場所なのだが、どこからか迷い込んだ猫を保護するために昼休憩中の作業員が足を踏み入れてしまったのだとか。平和なのは良いことであるが、もう少し緊張感を持ってもらっても良い状況である。
「猫は捕まえたんですが、何人か巻き込まれまして……」
そのうちの怪我の程度がひどい者たちが三人、横たえられていた。
イエラキは右手をかざすと、日中でも感じられる温かく柔らかい光がゆっくりと放たれた。
見る間に傷がふさがり、折れた骨が元に戻っていく。
こちらの世界では上級職の神官による神の御業と変わらない奇跡、彼の固有能力である『癒しの光』である。
「おお、神様ありがとうございます……」
心配そうに様子をうかがっていた作業員たちはそれぞれの作法に則って神に祈りを捧げた。
「今日も大活躍だったみたいね」
イエラキのひざの上で喉を鳴らす黒猫を手の甲でスベスベしながらミズキが嬉しそうに。
「僕でも必要とされる、というのは良い気分だよ」
「相変わらず自分の評価が低いわね」
彼はコーヘイよりも自分のことをあまり語りたがらなかった。コーヘイの場合は彼自身の事よりも彼のの巻き起こす出来事の話題が多すぎて彼自身までたどり着かないためであるが、イエラキは必要以上のことをあまり発するイメージはなかった。元の世界では星同士が戦争を繰り広げているという、地面が丸い球体であるということにすら驚いていたミズキには全く理解のできない話をする割にはとても穏やかな気質だった。
「ミズキはさ……」
「ん?」
「例えば小動物にはとても危険だけど、人には問題ない程度の魔法って何かある?」
んー、と少し考えを巡らせながら、
「一番弱い毒の魔法とかかな? 神経にダメージを与えて呼吸ができなくなるの。最悪、命に関る症状になるわね。人にかけてもしばらくクシャミと鼻水が出るくらいだけど、それがどうかしたの?」