第19話 聖女との麺会 (1/2)
「ほぅ、なるほど。これは牛と豚の肉を細かくしたものなのですね」
「はい。二つを混ぜることで牛特有の臭みを緩和する効果があるとのことです。また、脂の融点の低い豚を混ぜることで炒めた料理に使用した場合には冷めても美味しく食べられるという効果がございます」
何がどうなったのか、コーヘイと助手のカリスは謁見の前に城の調理場で、第一王女『聖女』プラテネム・アールヴからと魔王国の重鎮貴族たちの視察を受けていた。少しピンクがかった銀色の長い髪、強い魔力を帯びてなお白い肌色は稀に生まれる『聖霊』の加護を持つが故の物であるとイデアから聞かされていた。
ふわっとした印象は想像通りの聖女、しかし長期間眠り続けていたにもかかわらず目覚めた瞬間にまずこの良い香りの物が食べたいと希望するあたり、自分の欲求には正直なようである。さらにそれが許されてしまうのは権限が強いのか、はたまたイデアたちの後押しがあったからか。
先ほどまで五体投地する勢いでコーヘイに厨房での調理を懇願していたキャロラインが、まるでできる女官のように料理に関する説明を行う姿には思わず笑みがこぼれてしまう。
「コーヘイ殿、そろそろ麺が茹で上がるですよ」
カリスの声に、
「よーし。盛り付けて持っていくから、みんなテーブルについて準備してくれー」
数人の料理人と給仕たちを残してゾロゾロと退出していく。
決して狭くはないが換気が十分でない部屋で大人数が集まり、大量のお湯を沸かしているのだ。それ相応の息苦しさがあった。
「ふぇー、息が詰まるかと思ったぜ」
「この湿気具合は普通の方には苦手でしょうな。自分などは心地よいですが」
さすがドワーフとうべきセリフだが汗だくなのは一緒である。
「やっぱし、スポットクーラー持ってきたら良かったな」
「とりあえず謁見までは技術の披露は最小限にとオーガスト殿が」
「わーっておりますよ。言ってみただけさ。明日にゃ街にも出られるだろうしな」
「でありますな」
綺麗な器に麺を盛り付け、数が少なくなった豚バラベーコンの代わりにビニール袋で麺つゆに2時間つけた味付け茹で卵をトッピングする。そして野菜と炒めたヒキニクのスープを流し込んだ。
用意したのは5食。
聖女、カリス、ヴィロスに……?
「や、元気そうだね」
「来てたのか」
「今朝、着いたところさ。いいタイミングだったよ」