第25話 【閑話】人工知能は可憐な少女の夢を見るか (1/2)

「天空の守神様、今日も素晴らしい一日をお与えください」

短い祈りの言葉の後、大きめの風魔法を天にむかって放つ。

太陽の出る方角を背にしてミズキは空に祈るのが日課であった。神とか奇跡とかいうものとは縁遠いと思われる魔法理論の塊な彼女にしては珍しい民俗的な行為であった。

「人の生死や運不運とか、理論理屈で語れない事柄が存在する以上、アタシたちも『そういう物が存在する』ということを認める必要性はあるのよ」

もしもの時に助けてもらえたらラッキーじゃないの、と稀代の魔法少女は笑うのだ。

宇宙は真っ暗であるといわれるが、星々の輝きを平均化すると淡いカフェラテのような色合いになるのだとか。もっともこれは無数にある銀河の平均なので『銀河の平均色』というべきかもしれないが。

そんなコズミック・ラテに包まれながら、可憐な少女の声が聞こえた。これは夢か幻か……。

気が付けば彼はそこに『あった』。

人類科学の粋を集めた自立型多用途衛星、と持て囃されたのは昔の話。しばらく時を経た今では攻撃のみに特化しすぎた燃費の悪いポンコツ衛星である。広範囲掃討兵器、精密射撃、気象兵器、国家間の戦時国際法など存在しなかった時代に積載された兵器の数々は存在自体が『悪』であり、爆破廃棄を待つだけの存在だった。

が……。

『……ソーラー充電30%。人工知能LR起動』

これまで何万回と行ってきた周囲のスキャニングに異常が発生した。

データにない地表情報、大気組成、エーテル濃度。少ない充電は瞬く間に尽き、再度しばしの眠りにつくことになる。

『友軍識別信号162835-0657、イプシロン』

膨大な情報の書き換え中に唯一照合できた情報、それがイプシロンからの信号だった。

彼もまた戦闘に特化しすぎたために冷遇されていた英雄である。サイバー化された身体は高出力の兵器を扱うことができた半面、規制されるのも早かった。随分と身勝手なものだ。

いくつかのサイバー部門と連絡を取り合い、人類に対して抗議行動を行おうとしていた矢先の事だった。この訳の分からない状況になったのは。

「おお、LRですか。アナタもこっちに来ていたのですね」