第1話 よろしくま・ぺこりの逮捕 (1/1)
新宿歌舞伎町から道を一本……いやあ、二本かな? 三本かな? とにかく数本離れたところは想像外の暗さであり、のらねこ一匹いないという寂れたところであった。 そこには数年前に潰れたという病院が壊されずに残っていた。ホラーファンには垂涎の場所であるが、後述の理由のため、誰も近づかないという。建物に向かう庭や通路はきれいに掃き清められている。土地管理者が真面目なのかな? と警視庁捜査一課第一係の日吉慶子(ひよし・けいこ)巡査部長は思った。場所は覆面パトカーのなか、他には捜査一課長、新丸子安男(しんまるこ・やすお)警視正、慶子の同僚、綱島泰彦(つなしま・やすひこ)巡査部長が運転席に座っている。「こんなところに潜んでいたとはな。さすが、天才なのかバカなのかわからないやつだ」 新丸子は煙草に火をつけながら、ニヤリとした。「課長、煙草はやめてください」 慶子が睨む。「はい、すいません」 素直に新丸子は火を消した。「なんか、ホラーファンが侵入してふざけそうっすね」 綱島が軽い口調で言う。最初に言っておくが彼はバカである。「ところがね。この病院に侵入したものは全て、謎の奇病に罹って必ず死ぬって、ネットで流れているの」「えー、じゃあ僕たちも入ったら死んじゃうじゃないですか!」「バカか。やつの撒いたデマに決まっているだろう」「本当ですか?」「お前、大学出てるんだよな?」「はい。東大法学部大学院です」「えっ、じゃあなんで国家試験受けなかったの?」「はあ、その日、大好きだったねこのミーちゃんが死んじゃって、悲しくて悲しくて涙も出ないほど悲しくて」「布袋寅泰ですね。綱島くん、著作権違反よ」「お前はキャリアにならなくて良かったようだな」「そうっすね」「課長、無駄に時を過ごしています」「そ、そうだな」「しかし、私たち三人で大丈夫なのでしょうか? 応援の必要は? それに、やつは公安部が追いかけている事案です。のちに問題にはなりませんか?」「うるさい。公安の山城が俺は大嫌いだ! あ、大声出して、ごめんね。パワハラじゃないから。ゴホン、情報によると、やつはお気に入りの女優と二人でいるようだ。人数に問題はない。見つけ次第、三人で射殺する」「えっ、いきなりですか?」「当たり前じゃないか! でなきゃ、俺たちが殺される」「はあ?」「もしかして日吉くん、やつのこと知らないの?」「知っています。自称『悪の権化』ですよね」「それだけじゃ、不十分だよ。やつは人間じゃない。凶暴なクマだ。しかもI.Qが1000もある。人の言葉も喋れるんだ」「怪物ですか?」「クマだ」「そうだったんですか……」「よし、時間だ。やつを倒し、警視総監賞をもらうぞ」 三人は車を降り、玄関へと入って行った。
鍵はかかっていなかった。「気をつけろ。やつの罠だ」 そっと扉を開ける。中は真っ暗だった。「ライトをつけますか?」「いや、赤外線レーダーを使おう」 新丸子が行った時、「うわあ」 綱島が叫んだ。「ひ、人が椅子に繋がれています」「ライトをつけろ!」 そこにはひどく傷つけられた男性が椅子に繋がれていた。猿轡をはめられ、目隠しされていた。「日吉、早く外してあげるんだ」「はい」 男は息も絶え絶えのようであった。「大丈夫ですか?」「なんとか……」 そこに、また綱島が奇声をあげる。「なんだ、うるさい!」「こ、この人、有名なミステリー作家、畳絨毯(たたみ・じゅうたん)先生ですよ!」「はあ?」 その時、新丸子の無線が鳴った。「はい。404号。……まじかよ! 警察庁が木っ端微塵に爆破されたって!」 なぜか、新丸子は嬉しそうに見える。しかし、今度は新子安のスマホが鳴った。「はい。……け、警視庁も、木っ端微塵……しかも、やつからの犯行声明が出ただと!」 新丸子「はがっくりと膝を落とした。