第40話 小夜子の新衣装とトーナメント (1/2)

時は穏やかに過ぎた。 新衣装はオタ丸の協力もあって、大正時代風、長袖ロング丈チャイナドレス、異世界魔法使い風、まで候補を絞った結果、チャイナ服に決定した。

裾が足首まである昭和初期の上海で暗躍したスパイ感があるデザインである。 小夜子とギャル谷はオタ丸の才能に感心するばかり。 数日で服飾関係の知識を仕入れて、ギャル谷と小夜子の意見を取り入れてさらさらとデザインまでするという多才ぶりを発揮した。

本日は学校が終わった後に、駅前のミスドに小夜子、ギャル谷、オタ丸の三人で集まっている。

「いやはや、テスト前にここまで仕上げてくれたこと礼を言うぞ。オタ丸くん、わらわは感謝しておる。ありがとう」

小夜子はデザイン画を前にぺこりと頭を下げる。

「いいよいいよ。僕も楽しかったし、服装のことも詳しくなれたから」

頭を下げることではないと言うオタ丸。

「オタ丸よ、それはいかんぞ。お礼は受け取るのも礼儀の内じゃ。じゃからの、大げさなものではないがミスド食べ放題じゃ。この程度の礼はさせておくれ」

小夜子の言葉にギャル谷もうなずいて口を開く。

「そうだよ、オタ丸っちはこんだけしてくれたんだし。どういたしまして、でいいんだからさ。ほら、ポンデリング食べて」

ミスドといえばポンデリング。もちもち天上の美味。カロリーの悪魔でもある。

「そうだね。間宮さん、どういたしまして。それから僕からも、色々珍しいこともできたし、ありがとう。ポンデリング、いただくよ」

オタ丸とも打ち解けて、最初のころにあった緊張は無い。

「うむそれでよいぞ。それから、なんでギャル谷が仕切るんじゃ」

「サヨちゃんが説教臭いからだって。でもねえ、これマジでいい感じだし。サヨちゃんには似合わないかもしれないけど」

「何を言うておる! こんなにイラストは可愛いではないか。さすがはわらわじゃ」

オタ丸の描いたイラストはモノクロ完成稿が二枚だ。 いつものド下品和装とチャイナドレスのイラストを、それぞれ漫画風に描いている。イラストのタイプとしては、目をそこまで大きく描かない青年漫画風だ。

「チャイナは緑から黒の色調で生地をイメージしてるよ。赤は派手すぎると思う」

話が変な方向に行く前に、すかさずオタ丸が軌道修正する。

「ほう、その辺りはスタイリストと共に決めるつもりじゃったが、参考にするよ。早速、これを元にオーダーするつもりじゃ」

「えっ、そ、そうなんだ。流石は間宮さんだね」

「ほほほ、褒めてもポンデリングくらいしか出ぬぞ」

上機嫌で小夜子はポンデリングに噛り付く。このポンデリングのコブを一つずつ齧るのが良い。二つ同時はなんか違う。

オタ丸はブラックコーヒーを啜りながら、男らしく個数を気にせずかじりつく。そんな様子をギャル谷がじっと見つめていた。

「オタ丸さぁ、なーんかここ数日で違ってんだけど」

「別に何も変わったことはないけど」

ほんの少しだが、丸眼鏡の奥でオタ丸の目が泳いだ。

「急に女慣れするとかって、普通はありえないよねェ。これは、アレじゃない。実は、女が出来たなぁ?」

「ほう。わらわもそれは気になるところじゃな」

傍から見れば楽しそうな絵面だが、男にとっては居心地が悪すぎてたまらないシチュエーションである。 ここに若松がいればまだしも、今は買い物や雑事を済ませに席を外していた。

「……中学の時に付き合ってた人がいて、最近こっちに戻ってきたから、また付き合うことになったんだ」

「おおおお」

「ほうほうほう」

小夜子とギャル谷が拍手をする。

「オタ丸はなかなかやる男じゃと思っておったわ。よかったのう」

「え、どんなコなの。なになに、そんなことが間近で起きてたとかマジで!」

「新学期から転校してくるから、もうすぐ会えるよ。その時にちゃんと紹介する」

堂々と言うオタ丸に、ここまで変わるのかと小夜子とギャル谷はそろって感心した。

「ほほほ、これはめでたきことじゃ。ギャル谷よ、祝いのテイクアウトを用意せい」

「まかしといて!」

「そんなドーナツたくさん食べれないって」

「遠慮はナシじゃ。ギャル谷よ、ポンデリングを限界まで詰めるんじゃ」

「よしきた!」

大盛り上がりとなり、ミスドでの宴はつつがなくお開きとなった。

時間は過ぎて、学年末テストが終わる。 ギャル谷とオタ丸は遊んでいたにも関わらず成績に自信があって、小夜子は手加減しないため全て満点だ。 テスト結果が張り出される前に、トーナメント戦がある。

長袖ロング丈チャイナ服のオーダーは大金を積んで前日に間に合った。花柄は彼岸花デザインで、髑髏の刺繍も入れてある。結局、生地は黒色になった。 大事な晴れ舞台の前日。袖を通してみると、思ったよりコスプレ感が強い。 「若松よ、どうじゃ?」

「……お似合いです」

「その間はなんじゃ?」

若松は意を決して口を開く。

「若干のコスプレ感が漂っております。お似合いではあるのですが、もう少し着慣れてからの方が良いのでは?」

「むむむ、わらわも少しそう思うた。よし、写真を撮ってギャル谷と聖蓮尼に意見を聞こう。どれ、ポーズはこれでよいか」

斜め45度でポーズをとった小夜子を、若松が撮影してすぐさま画像を送信する。 幸いなことに、二人からはすぐに返信が来た。

まずはギャル谷からだ。

【カワイイ!? 強キャラ感は薄れたけど、アル付きで喋ったらもっとカワイイ!!】

「うむ、やはりギャル谷は分かっておるな。今回は可憐さを前に出しておる」

聖蓮尼からも返信が来る。