第63話 小夜子とギャル谷と怪人たち (1/2)
学校というのはだいたい毎日通うものだ。 小夜子と若松は仕事が入ると休まざるを得ない。小夜子はいいが、若松はなかなかに大変で勉学にも熱心であった。
小夜子からすれば、成績などなんとでもしてやれるというものだが、どうにも若松は真面目に勉強をするので困っている。
そういうことで、今日も学校である。 梅雨に入り、蒸し暑い。 小夜子が驚いたのは、教室にエアコンが効いているということだ。90年代はどれだけ暑くても汗みずくで授業を受けさせられていたというのに。今となっては、そんなことしようものなら命に関わる。
「涼しい教室というのは良いものよな」
小夜子が言えば、ギャル谷が応じる。
「無いとこの方が珍しいんじゃない。エアコン無いってどんな学校?」
時はお昼休み。 いつものように重箱をつついている。
「昔はそんなもん夢のまた夢じゃったというのに。現代っ子めが」
ギャル谷はナスの蒲焼を取って、口に含む。小さく「美味しい」とつぶやき俵おにぎりを頬張った。 若松の包丁はますます冴えている。
「ンン。若まっつんも腕を上げたねぇ。エアコンくらいでそんなこと言われても。サヨちゃんだって、夏は外で遊ぶなって言われてたでしょ?」
「世の中が移り変わるのは早いものよ。<ruby><rb>年年歳歳</rb><rp>(</rp><rt>ねんねんさいさい</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>花相似</rb><rp>(</rp><rt>はなあいに</rt><rp>)</rp></ruby>たりも昔の話じゃな」
「それ難しすぎない? 普通の会話で出たの人生初なんだけど」
「わらわも使うたの初めてじゃな」
小夜子は半分に切られたコロッケを取ってぱくりと食べる。
「んむんむ、肉じゃがコロッケは食いでがあってよい」
「あ、これって駅前のとこのヤツでしょ。あそこ、シューマイも美味しいよ」
「こういう出来合いのものも良いのう。出来合いで思い出したんじゃが、ギャル谷は手巻き寿司というものをどう思う?」
怪訝な顔になるギャル谷。
「出来合いとかお惣菜とか関係ないし。どうって、手巻き寿司は手巻き寿司だけど」
「わらわ、手巻き寿司やったことないんじゃ。自分の好きなものを乗せるというのが、どうにものう。巻き寿司ならわらわも作れるんじゃが」
「すだれみたいなので巻くのってどうやるの?」
「コツがあるんじゃが、慣れるとそこまで難しいものではないの。巻き寿司、食べたくなってきたんじゃが」
「美味しいけど、糖質の王様だよ。太るって」
「わらわ、食べても太らんから大丈夫じゃ」
「それ、あーし以外だったら怒るやつだよ」
小夜子がぽんと手を打った。
「この中身の無い会話! 今のわらわたち、JKじゃな」
「今ので一気に嘘くさくなったんじゃね?」
「最近のギャル谷は言うようになったのう」
「サヨちゃんのおかげだし」
「ほほほ。こやつめ、言いよるわ」
そのように中身の無い会話をしている内に、重箱は空になっていく。 小夜子が八割を食べており、ギャル谷は標準的な量しか食べていない。最初は驚いたギャル谷だが、もう慣れた。しかし、この味にだけは毎日感心している。
本日の若松は、遅れた勉強を取り戻すべくオタ丸くんにノートを写させてもらっている。男子生徒の知り合いができて、本人はほっとしていた。 若松の周りには女の子が多すぎるため、わりにしんどい時があるのだ。
そろそろお昼休憩も終わりという時間に、ギャル谷は少し真面目な顔をして言った。
「サヨちゃん、進路とかって決めた?」
「進路のう。わらわ、退魔師を続けるつもりであるし、世間的には家事手伝いでもフリーターでも大学生でもなんでもよいんじゃ」
「えええ、そうなんだ。あーし、大学とかどうしよっかなって」
「まだ高校一年じゃし、なんとでもなるじゃろ」
「お父さんの稼ぎが悪いからね。バイトしてるんだけど、お金のこともあってどうしよっかなって。奨学金とか、借金地獄だってニュースで言ってるし」
ギャル谷は薄く笑んでいるが、内面では真剣な相談である。それを分からない小夜子ではない。
「ギャル谷よ、自分で決めよ。わらわは応援してやるし、金だって貸してやってもよい。先日はクルミンの件で使いすぎたが、学費くらいは楽勝じゃからな」
「えっと、どういうこと」
「ギャル谷が決めたことならば<ruby><rb>助</rb><rp>(</rp><rt>す</rt><rp>)</rp></ruby>けてやると言うておるんじゃ。だから、自分で決めたらよい」
ギャル谷は何とも言えない苦い顔をした。
「サヨちゃんのそういうとこ、ホントにやり辛いんだけど。でも、ありがとうね。お金はいいよ、自分でなんとかするから」