第104話 龍子の語ること (1/2)

龍子が話しはじめた。

ユメちゃんは四年生の夏休みが終わったころに、川沿いの幽霊屋敷に越して来た。 いつも花柄のスカートを履いているちょっと変わった子。切れ長の瞳は猫のようで、ツインテールの黒髪はいやに艶やかだった。 ユメちゃんが休んだ日、小泉くんと一緒にプリントを届けに行くことになってしまった。 小泉君はサッカー好きの男の子で、サッカーできなくてつまんねえと言いながらも何かと気遣って話しかけてくれたのを覚えている。

街で一番大きな河川。 川沿いにある荒れ放題のお屋敷は、かねてからお化けがでると噂される空き家だ。そんなところにユメちゃんは引っ越してきた。

「足木はユメちゃんの友達?」

「ううん、あんまり話したことない」

「お前、友達少ないもんな」

小泉くんにはデリカシーが無い。 悪意はないけれど、残酷なことを言う。 友達は欲しいけどあの子とは遊ぶなと言われる立場だから、仕方ないことだ。だいたいお父さんが悪い。

「小泉くんって、……まあいいか。それより、あそこで間違ってないよね?」

川沿いの廃屋は、どう見ても廃屋のまま。元はお屋敷だったのだろうけど、今はうら寂しい幽霊屋敷だ。 人が引っ越すとなったらキレイにするものではないだろうか。子供でも、あんなところにそのまま住むなんておかしいことくらいは分かる。

「うわっ、すげえとこ住んでる」

小泉君は素直に思ったことを口にする。 ひどいと言わないのは、彼の優しさかもしれないと思う。

朽ちかけた玄関に辿りつくと、呼び鈴も鳴らしていないのにドアが開いてユメちゃんが出てきた。

「いらっしゃい。プリント届けに来てくれたのよね」

ユメちゃんは花柄のスカートにつるりとした黒シャツ姿だ。一周回ってオシャレっぽく見えた。

「お、おう。元気そうじゃん」

「えっと、ユメちゃんって風邪ひいてたのよね?」

言ってから後悔する。ずる休みだとしたら、悪い言い方だ。別に咎める気はないというのに。

「かったるいから学校行かなかったのヨ。プリントありがとね。どう、遊んでいかない?」

小泉君が笑顔になった。

「お前、ワルいヤツだな。何して遊ぶ?」

「小泉くんってイカスじゃない。そこの川で亀でもイジメましょう」

なんで!? 亀をいじめて遊ぶってなに!?

「ぶははは、お前、ヤベーやつだな!」

ユメちゃんのサイコパス発言に小泉くんは大ウケだ。どうかしてる。

「え、それはワルすぎだよ。動物とかイジメちゃだめだよ」

「うーん。龍子ちゃんは真面目すぎじゃない? ついてきて」

ユメちゃんがびゅうっと駆けだすと、小泉くんもついていく。

「ちょっと、待ってってば」

それから、河原で遊ぶことになった。 ユメちゃんが捕まえていたのは危険な外来種で話題になっているワニガメだった。後で食べるために、川に造った生簀で生かしているそうだ。 一匹潰して食べようと言うから、小泉くんと一緒に止めた。必死の説得だ。だって、鎌でワニガメの首を落とそうとするから。

「美味しいのに……。まあいいか、動物を見にいきましょう」