第1話 始まりは小さな野望 (1/2)

ご挨拶

初めましての方もお久しぶりの方も、本作品にお越し下さりありがとうございます。私の作品の中で『お仕事シリーズ』となる三作品目の物語となります。基本本作品のみで楽しめる内容となっておりますので、楽しんでいただければ幸いです。

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あれは私が12歳の頃だっただろうか。大好きな両親が鉱山の落石にあって亡くなったと聞かされたのは。

もともと父の両親がこの地を治める伯爵様だったということもあり、私たち家族はそれなりに裕福な生活を送っていた。 小さいながらもお屋敷を持ち、両親は優しく妹は可愛く懐き、お手伝いさん達とも和気藹々とした暖かな生活。

よく伯爵家の親族ならばもっと贅沢な暮らしが出来るんじゃないか? と尋ねられることもあるが、伯爵の爵位は父のお兄さんが継いでいるし、王都にあるお屋敷からは両親の結婚と同時に独立したとも聞いている。 その上お母さんが庶民の出ということもあり、二人の結婚には多くの反対の声が上がったのだという。 他家からしてみれば父は将来が約束された優良物件。祖父が爵位退く際に、父には鉱山の管理を託されていたわけだし、伯爵家を出たからといって親族という名前が消えるわけでもない。 そんな父に取り入ろうとする貴族はやはり数多くいたのだという。

伯爵家としてはより多くの貴族達と関係を築きたいと思うだろうし、親族からは父を取り込んで、より多くの富や見返りを得ようとするのは当然の流れだろう。 外からは毎日のように送られてくる見合いの話、身内からは投資だ援助だとお金にかかわる話にウンザリし、父はある日一人で街へと繰り出したのだという。 初めてみる街の風景、いつもは馬車の窓越しで見ていた景色が手の届くところにある。そんな風景の中、一軒の花屋で働いていたお母さんに一目惚れしたのだという。

慎ましやかで穏やかな性格、花々と一緒にニコリと微笑むだけで胸の中が一瞬にして温かくなる。 化かし化かされ、笑顔の裏に隠れたドロドロの世界にいた父には、お母さんの笑顔が天使に見えたのだと、以前顔を真っ赤にしながら教えてくれたことを良く覚えている。 当初お母さんは、お父さんとの身分違いから誘いを断っていたらしいのだが、毎日やってくるお父さんの求愛に次第に惹かれてしまい、いつしかこの人ならばと思うようになってしまったのだとか。 これはお父さんには内緒なのだけれど、お母さんも実は一目惚れだったのだと、笑いながらおしえてくれたことがあった。

そんな二人がようやく結ばれたのは出会ってから二年ほど過ぎた頃。周りの猛反対に、一時は伯爵家の人間とは縁を切ろうと思っていた事もあったとのだという。 けれど最後は二人がこれほど愛し合っているのならばと、祖父母の後押しがあって無事に結婚。その数年後に私と妹が生まれたわけなのだが、当然の如く祝福してくれたのは両親と祖父母を含めた僅か数名。 大半の親族達は、平民の血が流れている私たち姉妹を疎ましく思っていた。

「お姉ちゃん……」「リア……」 両親の葬儀には鉱山関係者の人たちが多く参列してくれた。 元々仕事熱心で、労働者さん達への配慮にも評判が良く、多くの人たちから慕われていたのだという。 それなのに近年の採掘量の低下で伯爵領の収入が激減、ほぼ鉱山に頼りっきりだった伯爵様は父に過剰な火薬の使用を要求。十分な安全対策を取らなければという父の声を無視し、伯爵様が独自に雇われた採掘チームの火薬による爆破で鉱山の一部が崩落した。 どうも一向に爆破許可を出さない父に、功を焦った伯爵様の採掘チームが独断で行ったらしいのだが、運の悪いことに別の場所で現場監督をしていた両親の頭上を、大きな落石が襲ったのだという。

両親の死は、そんな鉱山労働者から多くの悲しみの声が上がったが、親族からは『現場で指揮なんてするからだ』、『父のせいで鉱山の採掘量が減ってしまった』だとか、心ない声が多く上がった。 しかも話はそれだけに留まらず、棺の前で泣き崩れる私たちの隣で残された鉱山をどうするか、私たちが暮らしていたお屋敷に誰が暮らすのか、更には父が残した財産をどうするかで揉め事が起こってしまう始末。 鉱山は父が管理を任されていただけで持ち主はあくまで伯爵様。父が亡くなった事で管理者という席は空くが鉱山自体が手に入るわけでもないし、お屋敷と父が残した財産に至っては私たちの持ち物だ。 それなのにあの人達は『あのお屋敷は私たちのだ』、『残された財産は一族全員に公平に分けるべきだ』と騒ぎ立て、肝心の私達姉妹は誰も引き取りたくないというのだから呆れてものもいえない。

確かに鉱山はともかく、暮らしていたお屋敷もあれば父が残してくれた財産もある。そのうえ仕えてくれていた使用人さん達もいてくれたのだから、私たち姉妹だけでも暮らしていけたのかもしれない。 けれども当時12歳の私たちがどれだけ主張しようとも、平民の血が流れている私たちにはそんな権利はない、よくもまぁそんな図々しいセリフが言えたものだと、誰一人として取り合ってはくれなかった。

結局最後はご年齢から引退された祖父母に引き取られたわけなのだが、その祖父母も一年ほど前に私の学園入学を見届けたあとに事故に遭われてしまい、私たち姉妹は現在父の兄である伯爵様の元で、細々と肩身の狭い思いをしながら暮らしている。

「ん〜〜〜」 朝の目覚めの共に大きく背伸びを一つ。 隣で眠る妹を起こさないようにそっとベットから抜け出し、昨夜のうちに用意していた水で顔を洗う。