第6話 追い詰められた心 (1/2)
リーゼ様が学園を去って数日後、予想通り翌日には学園中に噂が広まっていたが、それでもまだ不確定な情報も多いということで、私への風当たりは静けさを保っていた。 だが2日・3日と過ぎていくうちに周りがざわめき始め、学園に戻られないリーゼ様、捻挫をして休んでいたはずの義理の姉が、翌日には平気な顔で学園内を歩いている姿を目の当たりにして、私の置かれた状況は想像していた以上に最悪な方へと進んでいく。
この学園では上靴のようなものは存在しないので、流石に存在しない下駄箱への嫌がらせはなかったのだが、今日だけで教室に向う途中にすれ違う生徒に舌打ちされること6回、私に聴こえるよう嫌味の言葉を向けてくるの8回と、すでに朝からHPはレッドゾーンに突入。しかもその殆どが一度も話した事のない生徒達なのだから、私の心情も察して欲しい。
やがて自分のクラスへとたどり着くも、予想通り向けられる視線は敵意のみ。ヴィスタが一人手招きをしてくれてはいるが、私は力弱く微笑み返して一人教室の隅の席へと腰を下ろす。
はぁ、そろそろ潮時かも知れないわね。
逃げ出すようで少々嫌なのだが、こうもあからさまに虐めに遭うのは精神的にもかなりキツイ。 それでもまだヴィスタとヴィルのお陰でなんとかやってこれたのだが、昨夜唯一の拠り所でもある彼女達に、私は叔父から近づく事を禁止されてしまったのだ。
「お呼びでしょうか、叔父様」 私がサロンへと入る叔父は一度だけこちらを一瞥し、何事もなかったように手にした書類に目を移す。 普段叔父が私を呼びつける場合は書斎におられる時が多いのだが、今日は何故かお屋敷のサロン。しかも目の前には優雅に食後のティータイムを楽しむ叔母と義理の姉までいる。
今までの経験上、三人の前に呼びされる時にはお小言や嫌味を言われるのが日常だが、ここ最近の疲労と、疲れの原因とも言える義姉を目の前にいるせいで、ついつい自然と口からため息が漏れてしまう。
「はぁ……、なんだその無愛想な態度は」 呼び出しておいてあまりのセリフに何か言ってやりたい気分になるが、確かに今の私は淑女としてはあるまじき行為を取ってしまったので、ここは潔く謝罪の言葉を口にする。
「申し訳ございません。最近少し身の回りで色々ございまして、疲れが態度に出てしまいました」 そう言いつつ私は軽く頭を下げ、逆らう意思がない事を見せつける。 叔父はそんな私の態度に満足したのか、ようやく本題へと移っていく。
「まぁいい。今日呼び出した理由はお前の交友関係だ」「交友関係ですか?」 叔父からの意外な言葉に私の頭に疑問が浮かぶ。 確か入学当初は家名の低い人間には関わるなと注意されたことはあるが、現在私の友だちはヴィスタとヴィルの二人だけ。別に自ら望んだ結果ではないが、他の生徒とは距離が離れてしまっているし、二人は共に伯爵家の人間だ。 決して叔父が言っているような身分の低い人間ではないだろう。
「あの、私の友人といえばアプリコット家のヴィスタ様とヴィル様ぐらいなのですが」「はぁ……、やはりそうか」 えっ? 叔父の意外な言葉に私は戸惑ってしまう。