第15話 プリンセス・リーゼ(後編) (1/2)
シンシア様の問いかけに、飲みかけだった紅茶を壮大に噴射させる私とリーゼ様。その現場を見ていたメイドさんが、大慌てで飛び散った液体を拭き取ってくださる様子に私とリーゼ様は平謝り。
ついつい大好きなお菓子トークに夢中で忘れていたが、ここは日本とは違う別世界。食材や食べ物は共通する部分も多いのだが、流石にこの国では和菓子や洋菓子なんて言葉は存在しない。 幸い良家のご令嬢らしく少量づつ口にしていたため、想像していたほどの大きな被害は出ていないが、それでも掃除をするメイドさんからすればいい迷惑。 私とリーゼ様はアタフタアタフタとしながら、二人同時に掃除をしてくれるメイドさんに対して謝罪する。
………………あれ、二人同時?
「あ、あの、リーゼ様?」 何かが引っかかり、思わずリーゼ様に問いかけようとするも、目の前のリーゼ様は私の声すら聞こえない様子で、何やら必死に誤魔化そうとしている。
「そ、それよりもリネアさんってお菓子作りが得意なのね。私の知り合いにお菓子作りが得意な方がおられるんだけど、どことなくその方に似ていることろがあるわね」「はぁ、そうなんですか?」 何やら強引に話の流れを変えられた気分だが、お菓子作りが得意な方と聞けば自然と興味が湧いてくる。
それにしてもリーゼ様との会話って、私と普通に会話が成立していなかった? そういえば大福の事もご存知だったし、見た目だけで大福の中身がいちごだとも見抜いていた。 するとリーゼ様って私と同じ………………お菓子マニア?
時々いるのだ、妙にお菓子に詳しいお菓子マニア。 メーカーやお店が新作や季節限定の商品を出すと、必ずチェックしないと気が済まない性格。中には自ら考案したメニューを提案したり、自身でアレンジしたオリジナルのお菓子を作ったりと。 何を隠そうこの私もアレンジ大好きのお菓子マニアなのだが、リーゼ様のこの慌てようから恐らく隠れお菓子マニアなのだろう。 東に浮かぶ島国には、昔暮らした前世の日本のような風習に近いと耳にした事があるので、おそらくそこから大福の材料を取り寄せしたのではないだろうか。 流石お金持ちのお嬢様、お菓子にかける情熱が違うわね。
「もしかしてリーゼちゃんが言ってる方って、ローズマリーの会長さん?」「ローズマリー? どこがで聞いたような……」「リネアちゃん知らない? 最近王都で人気のスィーツショップなんだけど」「あぁ、先日ヴィスタに連れて行ってもらったあのお店。そういえばそんな名前だった気が……」 私が持ってきたいちご大福に使用したチョコ、それが売っていたスィーツショップがそんな名前のお店だった。 聞いた話では隣国に拠点を置くチェーン店らしいのだが、先日のタルトのお返しにとヴィスタが連れて行ってくれたお店で、懐かしい前世を思い出させるようなラインナップに、チョコや多種多様の茶葉なども多く売っていた。 まさかそこの会長さんと知り合いとは、流石リーゼ様と言うべきなのか。
「さっき私が言っていた自然と人を惹きつけてしまう、って言う人がまさにその人なんだけど、何処となくリネアさんと雰囲気が似ているのよね」「私がですか?」 過大評価していただいているとこと申し訳ないが、平々凡々で何の特徴もない私じゃ、とてもじゃないが人を惹きつけられる自信などこれっぽっちもありはしない。
「なんて言うのかしら、手を貸してあげたいって気持ちも勿論あるのだけど、自然と次は何をしてくれるんだろう、どんな未来を見せてくれるんだろうって想いが湧き上がってきて、それを楽しみにしている自分がいるのよね」「そういえばヴィスタも似たような事を言っていたわね。リネアちゃんは危なっかしくて見ていられないけれど、いつか人を引っ張っていくような存在になるんじゃないかって」「そ、それはさすがに買いかぶりではないでしょうか?」 上げに上げまくられてはいるが、私は人の上に立てるような人物では決してない。 もしお菓子作りの事を期待されたのならば、それはあくまでもただの趣味範囲であり、リーゼ様のお知り合いのようにお店を展開させるほどの知識もなければ、人を扱えるようなコミュニケーション力も持ち合わせてはいない。 第一に前世ではただの雇われの見習い料理人だったのだから、精々頑張ったところで小さな食堂を経営出来る程度ではないだろうか。
「ふふふ、まぁ私たちが幾ら言ったところでわからないでしょうね。ただね、そういう人っていうのは、好かれる対象が人間に対してだけじゃない、ってことだけは頭に入れておいて」「はぁ……、よく分かりませんが、リーゼ様のお言葉は心に刻んでおきます」 人間以外に好かれるっていうのは犬や猫のようなペットにも? ってことかしら。 確かに前世ではやたらと猫や犬には好かれていたが、それが一体何の役に立つというのだろうか。