第28話 精霊契約 (1/2)
「ま、まぁ取り敢えずその話は横へと置いておきましょ」 今度は私が冷や汗をかきながら、誰にも気づかれないように話を元の方へと修正していく。 私が前世の記憶を宿しているなんて、別に隠しているわけでもないのだけれど、通常の思考の持ち主ならばまずは相手の頭の方を心配するだろう。 私ならば間違いなく病院へと通うことを提案する。 つまり私が前世の記憶を持っていると教えられるのは、同じく前世の記憶を宿している人か、それとも頭の線が何本も切れている変な人ぐらい。 なのでこの秘密は私がお墓へと入るまで持っていかなければならないのだ。
「なに慌てているのよ」「慌ててないわよ!」 ノヴィアにすら気づかれていないという、僅かな変化をアクアにつっこまれる。
「と、とにかく何で泉を凍らせられないかちゃんと説明しなさい。貴女のお社が気になるなら、新しく日の当たる場所に立ててあげるから」「うぐっ、新しいお家……」 先ほど見た感じでは、洞窟内の湿気やらでお社の彼方此方は腐ったり、崩れたりしている部分も多く見られた。 あのお社は建てられてから何百年かは経っているという話なので、今まで補修などを繰り返して持たせていたのだろうが、それもそろそろ限界が近づいている。 ならば今度は日の当たる場所で新しく建ててあげた方がアクアにとっても良いことだろう。決して洞窟を冷蔵庫として使用するために邪魔だからとは、口が避けても言えないけれど。
「あ、新しいお家は欲しいけれど、ダメなものはダメなの!」 思っていた以上に中々に頑固ね。 物欲に正直なところは素直で可愛いが、此方もフィオの頼みを叶えてあげたいという気持ちもある。 ならば私が取る方法はこれしかない。
「アクア、出来ない理由を説明しないなら此方も最終手段を取らなければならないわよ」「な、何よ。最終手段って……」 若干私の迫力に押され、アクアが空中で後ずさる。 これだけは使いたくなかった。可愛い我が家の新しい家族を、こんな謎の生物にぶつけるなんて。
「喰らいなさい! タマクラーッシュ!!」「みゃーん♪」「きゃーーー、それだけはやめてぇーーー」「「「……」」」 私の必殺技名とともに、ノヴィアからタマを奪い取りアクアの方へと突きつける。 流石のアクアも先ほどタマに齧られた事がトラウマなのか、泣きながら机の上で怯えだし、その様子にノヴィアを含む3人が、何やら私に向かって冷たい視線を送ってくるが、そこはあえて見なかった事として受け流す。
「さぁ言いなさい。さもないと再びタマの歯型が貴女の全身を刻むわよ!」「わかった、わかったからその悪魔を私に近づけないでぇー」 まったくこの子のどこが悪魔だって言うのだろうか。 こんな愛らしくて可愛いタマが悪魔だなんて。
結局私の最終奥義が効いたの、アクアは素直にできない理由を教えてくれる。
「じゃなに? 泉ほどの規模を凍らせるにはその魔力とやらが足りないっていうの?」「そうよ! 何か悪い!」 アクアの話では水を凍らせるにはそれに伴った魔力とやらが必要となるんだとか。 かつて海を凍らせたら際、限界以上に魔力を絞り出してしまった為に長き眠りについてしまった。 本人もまさか何百年も眠りに付くとは思っておらず、今度同じような事をすればせっかく目覚めたのに再び眠りにつく恐れがあるため、今は必要以上の力は使いたくないのだという。
確かにアクアが居なくなってしまえば、こちらにとっても大きな痛手よね。 私の目的はアクアによる永久の氷生産だ。本人が聞けば怒りそうな理由だが、それに見合った報酬も用意するし、新しいお社も用意もするつもり。 あとは本人の気持ち次第なのだが、よくわからない魔力ともなると正直私の領域を遥かに超えてしまう。
「魔力、魔力ねぇ。MPみたいなものなのかしら?」 ゲームとかで魔法を使うと、確かマジックポイントというものを消費するんだったかしら? 「何よそのMPって」「あぁ、こっちの話。つまりはその魔力があれば良いわけね」「そういう事よ」 正直魔力と言われても、それがどの様なものかがわからない以上、今の現状ではどうしようもない。 アクアが言うのは自然にはマナとかいう魔力が宿っているらしいが、行使する術が大きければ大きいほど、その魔力が大量に必要になるんだとか。 まさか冒険してレベルを上げれば、その魔力とやらが上がるというわけでもないだろうし、マジックポーションなんて便利アイテムがあるわけでもない。
「理屈はわかったけれど、その魔力って別の何かで補えないの?」「出来るわよ。私の魔力が足りなければ別の者から貰えばいいのよ」「別の者?」 あっ、それって確か……
「もっとも、私の様な高貴な魔力を補えるだけの人間なんて……そうそう……いるわけが……ない……」 そこまで言いかけて、なぜかアクアは私の方を見たまま固まった。
「何よ、私がどうしたのよ?」「あ、あ、あ、貴女、なんて馬鹿デカイ魔力を持っているのよぉ!!」「へ? 魔力?」 私に魔力が? そういえばリーゼ様に頂いた本に精霊契約による魔力がどうのと書かれていた箇所があった。 その本によると精霊契約する事によって、精霊は人間が持つの魔力を共有し、人間もまた精霊が扱える魔法が使える様になる。 ただ問題は人間側が持つ魔力が限りなく少ない為に、例え運良く精霊契約ができたとしても、大した力は発現できないだという話だった。