第78話 明るい未来、暗雲の気配? (1/2)

「今戻ったわよ!」 元気な声を高らかに上げながらお屋敷へと戻ってきたのは、私の契約精霊でもあるアクアと、一時的に契約を結ばせていただいた精霊のノームとドリィ。 兼ねてより私の元を離れ、ヘリオドールの領主でもあるガーネット様の一大事業、アクアとヘリオドールの街とを結ぶ街道整備に携わっていたのだが、この度晴れてその役目を終える事になった。

いやぁね、不可能とされていた街道が開通された事で、ガーネット様からはお礼の手紙は届くわ、ヘリオドールの各商会からはお礼の品が届くわで、何ともむず痒い思いをしていたのだ。 だってそうでしょ? 私自身精霊達に魔力を貸していただけで、直接何かをしたわけでもなければ、アクアから出資金を出した事もないのだ。 それでも何代にも渡り苦悩と挫折を味わってきた一大事業が、ガーネット様の代で達成する事が出来たので、私と精霊達には感謝してもしきれないのだと、嬉しいお言葉いただいている。

「お疲れ様みんな。本当にご苦労様」 アクア達が今日戻ると聞いていたので、お屋敷の全員が集まってのお出迎え。 今日ばかりはアクアのワガママにも対応できるよう、食べ物あり、飲み物あり、ちょっぴり苦手なタマありと、一通りリクエストに応えられるように準備させていただいた。

「とりあえず食事の用意をしているからゆっくり休んで」 本来精霊達に食事という概念はないらしいが、味覚とそれを味わう口があるため、人と同じように食事を楽しむ事ができる。 もっともアクアの場合、食事というよりデザートを楽しむといった方が合うのだけれど。

「それにしてもしばらく見ないうちに色々変わってるわね、こんな大きなお屋敷どうしたのよ」 ノヴィアが取り分けたアップルパイを齧りながら、アクアがキョロキョロしながら話し出す。 そう言えばアクアがこのお屋敷に入るのは初めてだったわね。

思い返せばアクア達が出かけたのは私がまだ小さな定食屋にいた頃だし、時折戻って来ていた時でさえ、小さな別荘をお屋敷代わりにしていただけ。 つまりアンネローザ様からの贈り物でもあるこのお屋敷には、初めて足を踏み入れた事となる。 その辺りの事をアクアに説明してあげると……

「はぁ、もらった!? こんな大きなお屋敷!?」 まぁ、普通はそんな反応をするわよね。 私だって遠慮したいほどの贈り物だけれど、アージェント家に仕えていた使用人達がほとんどこっちへとやって来ちゃうし、年頃のリアとフィルの部屋を用意しあければいけないしで、アンネローザ様用にとご用意した小さなお屋敷では、とてもじゃないが間に合わなかったのだ。 正直このお屋敷のことに関しては感謝するしかないだろう。

「まったく、相変わらずリネアには驚かされてばかりだわ」「ふふふ、褒め言葉として素直に受け取っておくわ」 こちらとしてはアクアの方にこそ驚かされてばかりなのだが、ここは素直に言葉を受け取っておく。

「それでノームとドリィだけど、これからどうするの? 二人が山に戻りたいというのなら契約を解除するけど」 二人には街道を繋げるという目的のため、アクアに頼んで連れてきてもらったろいう経緯があり、精霊契約にいたっては魔力うんぬんの関係で、一時的に私と契約を結ばせてもらったもの。本人達が再び山に戻りたいと言うのなら無理強いする事は出来ないだろう。 勿論それ相応のお礼もするつもりだし、今後あそびに来る事があればお屋敷をあげて歓迎もするつもりだ。

「おぉ、その事なんでが、ワイもドリィもどうせ山に戻ってもする事おませんで、このままリネアはんとこでお世話になろうかとおもうてますねん。もちろんお仕事の方も手伝いますんで」「いいの? 精霊の事はあまり詳しくはないのだけれど、自然がいっぱいある方がいいんじゃないの?」 何と言っても彼ら(?)は人とは違う精霊達。アクアは水の精霊ということで、海が近くにある今の環境には適しているのだろうが、ノームとドリィに関しては緑に囲まれている環境の方がいい気がする。 それに悲しい事に人によっては悪事に手を染める輩もいるため、精霊達は人が寄り付かない山や樹海といった自然溢れた場所を好むと聞く。そう考えるとやはり二人の精霊達が心配になるのだが。

「その点に関しては心配いらぁしまへん。魔力のことはリネアはんと契約しとりますさかい、ワシらがマナ不足で死ぬ事はありはしまへんし、仮に悪い人間に捕まったとしても、逃げる事は容易いおますねん」「そうなの?」 なんでも精霊達は自然界に溢れるマナという魔力を糧に存在しており、精霊契約を結んだ場合はその必要となるマナを、契約主である私から摂取し続ける事が出来るのだという。

確かにノーム達の魔力は私から供給しているわけだし、その行使される力の大きも契約主の私の魔力に依存されると言っていた。 私自身そんなに自覚はないのだけれど、どうも転生者の性なのか結構大きな力を持っているらしく、本来一人1精霊と結べればいいところを、私は今の時点で同時に3人もの精霊を契約を結んでいるし、尚且つ普段の生活に支障らしい支障は全く出た事がない。お腹は空くけど……。 そう考えると例え悪い人たちに捕まったとしても、ノーム達は魔法を使って反撃もできるし、重力という概念がない彼らには空中を漂って逃げる事もできるから、安心といえば安心な状態。

「ワシらも別に人間を嫌とうるつもりはありぁしまへん。お手伝いをしておった時なんぞ、皆んなに優しく接してくろとぉおりましたさかい、楽しく過ごせておりましたんや。それにワシらは元々人間と力を合わせることに喜びを感じる種族なもんで、リネアはんのお手伝いをすることが嬉しいんでおますねん」「喜びを感じる? 精霊ってそういう存在なの?」「何よ、知らなかったの?」 アクアの話によると、精霊達には元々人の役に立ちたいという想いが刻まれているのだという。 これは遥か昔に精霊の王様と人間の王様が交わした約束らしく、お互い信頼し合い力を合わせて共に過ごすという『想い』と、地上で生きるもの同士、互いに信頼し合える『願い』が込められているのだとか。 精霊契約はその『想い』を交わす戒めであり、絆を育むための『願い』でもあるのだと、アクアは照れながらに教えてくれた。

そう言われれば確かに思い当たる節があるわね。 精霊契約により私は魔法っぽい現象を生み出すことが出来るわけだし、アクアだって持てる以上の力を振るうことも出来る。 一方なにか悪さをしようとすれば私はアクアを戒めることも出来てしまうし、アクアもまた私から魔法の力を無くすことも出来るのだと聞いている。やらないけどね。