肩肘を、張りつかれた人に、憩いの場所を。
著者: 酒の飲めない居酒屋店主
時間: 9 月 前
まとめ:
都会の中心を外れた位置にある、商業地を避けた閑静な町。その中にぽつりとたつ、一見では店と分からず見落としそうな一軒の居酒屋がある。店と気づいて扉に手をかけると「金持ちなお高い客はお断り」の文字。来る客は誰もが考える。「儲けるならお金持ちが来る方がいいのではないか」と。そうしてドアノブから目線をずらせば、右隣には木製の三脚に立てられた、居酒屋の出入り口にありがちな小さな黒板。しかし、そこに書かれる文字は、お品書きならぬ但し書き。「暇人、変人、名人、凡人、狂人大歓迎」と、「お客様は神様だ。しかし信者は神を選ぶ」と書かれた、普通の人なら怪しくてひくであろう不思議な居酒屋。しかし、訪れるものは尽く、どこからともなく惹かれて、沸き出す好奇心に押されて扉に手をかける。すると、そこには――――「おぅい、不精髭、空いてるかい」「帰れ」客をすぐに店から追い出そうとし――――「接客? そんなもんしてほしけりゃ別の店へ行くんだな」「クレーム? 言うだけ言ってみな。誰もそれを聞く相手はいないがな」男の辞書には接客の二文字は無く――――「それも売り切れ、それは品切れ、そいつは限定品。どれも一月以上前から在庫切れだよ」「メニューと品が違う? そんなメニュー書いた記憶がねぇな」男の辞書にはメニューすらも存在せず――――「ほれ、端材食品の盛り合わせだ」「昨日と味が違う? そりゃそうだ、昨日の味付けなんて記憶にねぇ」料理やその味にすらも、こだわりの欠片も無ければ誇りもない――――――――そんな、中年の金髪ヤンキーがそこに居た。しかし、それでも毎日客は来る。思い思いの想いを秘めて。…続きを読む