それは、古の英雄が後世の者達のために詠った、ひとつの願い。
英雄の、その剣は誰の為にあるのか。これは、その答えにたどり着いた二人の若者の物語。 シュタフヴァリア大陸。先の大陸平定戦争から百年が経った、神聖帝国。白の精霊への信仰の下、戦も飢えも病すらも克服された、平和な世界。戦う必要がなくなった世界で、それでもなお戦う理由を求める者に、唯一残された場所がある。 白騎士の祭典。 国一番の英雄の称号。白の精霊の加護のもと、何でも一つ願いを叶えることのできる権利。 そんな百年に一度のチャンスを求め、一人の鍛冶師の青年が、名乗りを上げた。 平和な世で、ひとり孤児として不幸な生を受けた、アレンという名の男の子。拾ってくれた家族の恩に、報いるために。病が克服されたはずの世界で、ひとり不幸にも不治の病に苦しむ、愛する義姉カトリーナのために。心優しいだけが取り柄のアレンは、鍛冶師としての鎚を握り、分不相応の戦いに挑む。 そんなアレンと相対するは、帝国史上最年少で【剣聖】の称号を得た若き俊英、ランダル・フォン・フランツベルク。帝国最強とのほまれ高く、皇女フラウディアからも恋慕を寄せられ、人が羨むもの全てを手にする、丈高き美丈夫。そんなランダルの心には、けれど常に、どこか満たされぬ、がらんどうがあった。平和に満ちた世で、意味なく与えられた強き力。ゆえにランダルは己に何の望みも見出すことができずにいた。 正反対な二人の若者を、運命が引き合わせた。ひょんな出会いから野良試合でランダルに完膚なきまでに叩きのめされたアレンは、命を懸け、血反吐にまみれた三年間で、戦士として己を鍛え上げる。 そして再戦した、白騎士の祭典、その決勝。死闘の末にアレンは敗れるが、その戦いは生まれて初めて、ランダルの心を熱く満たした。己を一とし、真の英雄として目覚めたランダルはかくして、英雄にしか望めぬ願いを叶える。 これは、無明の中の冷たい鋼が、鍛冶師の鎚で火花を散らし、美しき英雄の剣となるまでの物語。※他サイト「小説家になろう」にも掲載。…続きを読む