第三話 (1/2)

よっこらせ、と酒呑童子は腰を上げる。【鬼門】は失われ、代わりに最強の鬼が手に入る…………。まるで戦隊モノのクライマックスの展開が如く、決意を固めた楓は酒呑童子の肩に乗り、衝撃のあった方角へと向かった。

永史は最早、鬼とは異なる何か獣の様なものに変貌していた。すべては養谷を<ruby><rb>斃</rb><rp>(</rp><rt>たお</rt><rp>)</rp></ruby>す為。人間らしい素振りなど1つもない。服を着ているだけの、獣であった。

養谷は相変わらず汚い声で笑っていた。

「俺を殺しても何も変わらねぇぞッ!?それでも殺り合うのか?えぇッッ!?」「…………」

瞳孔が開いた状態で、しかし無言の返事をした永史は養谷の<ruby><rb>懐</rb><rp>(</rp><rt>ふところ</rt><rp>)</rp></ruby>に潜り込み、その腹に一発拳を叩き込む。

「…………」

互いに譲らない、譲れない争いが続く中【鬼門】の鬼たちがその戦場に駆け付けた。「永史、殺っちまえ!!」「そんな奴ぶっ飛ばせ!」怒号にも似た野次が飛ぶのも意に介さず、永史は養谷に殴打を決め続けた。

「『<ruby><rb>将不諍止</rb><rp>(</rp><rt>あらそいをやめよ</rt><rp>)</rp></ruby>』」

静かでしかし偉大な権限をその時、誰もが感じ取り静止した。あまりに巨大な存在に、本能が叫ぶ。

この声こそ酒呑童子、鬼の祖だと。

養谷も同様に、微動だにしない。ただ声の方を見、畏怖と恐怖とに震う背中だけが、彼の生命の在ることを物語っていた。

絶対の存在…………そんなものに、たかが人間や鬼が逆らえるはずもない。どちらつかずのm class="emphasisDots">僕なら、なおさら。

再び自我が還ってきた時、永史は全身にひどい痛みを覚えた。その体はボロボロに傷つき、至るところから血が流れていた。痛みのあまり失神も<ruby><rb>赦</rb><rp>(</rp><rt>ゆる</rt><rp>)</rp></ruby>されず、声すら出せないまま、傷口で泡立つ鮮血に嫌悪感を抱きながらその<ruby><rb>巨躯</rb><rp>(</rp><rt>きょく</rt><rp>)</rp></ruby>を仰いだ。

「『<ruby><rb>在永史</rb><rp>(</rp><rt>ひとのこ</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>人仔</rb><rp>(</rp><rt>えいじよ</rt><rp>)</rp></ruby>』」「…………はい」