最終話・下編 そして財布は (1/1)
それから1週間が経った。零史は息子に対する殺人未遂で逮捕され、詩遠は単身赴任の為また日本を去った。永史はまたチサと共に暮らし始めた。何も変わらない日常に戻ったのである。
唯一、永史に彼女が出来た事を除いてだが。
それはつい先日の事である。以前と変わらないホームルーム……のはずだった。
「……突然だけど、転校生いるんだわ。はい、入っておいで」
ガラッ、と勢い良く入ってきたのは美人。男子が鼻の下を伸ばして見つめる中、その美少女はただ一人を見てニコッ、と笑った。妬みの視線が、永史に集まる。
「……えっとね、自己紹介」「はじめまして、京都から転校してきた最上楓です。よろしくお願いします」
謎の美少女転校生……と皆は言うが、僕だけはその正体を理解していた。名前の通り彼女は楓である。最上、という名字はいつか監視役だった
で、何故楓は僕の前に現れたのか。彼女はなんとm class="emphasisDots">鬼を辞めたというのだ。なんでも、先の酒呑童子との決戦で奴が使っていた技を柏と櫻が改造し、一時的に鬼を人にする術式に作り替えたのだとか。これで鬼と人は共存しやすくなる、と楓は言う。
「でも、それで良いの?」「良い。お前と一緒にいられるからの」
相変わらずの口調で、楓は笑う。で、僕はふと思い出す。それはかつて槐様に下された、僕の使命。
「――――財布?」「そう。槐様の酒の肴を買うのが当初の使命だったじゃん。でも、その役目は……」「ま、お役御免じゃな。というわけで」
楓は僕の手に、何かを渡してきた。掌の上を見ると、そこには5円玉が。
「ご縁があるからの。持っておれ」
そう言うのが恥ずかしそうに、視線を逸らした楓。僕はその仕草にドキッとして、楓の右手を左手で握った。
「福知永史、おぬしを財布から解任する。そして、私の恋人に昇格する」
顔を紅潮させながら言う様は、さながら純真な童女だった。
酒呑童子を斃した人間の少年と、次期の酒呑童子となった鬼の童女。2人の生がまた、新たに始まる――――。
(酒呑童女お財布日記・完)