略奪? (1/2)

【能美明日香】

「てぇへんだてぇへんだぁ!」「な、なによ、朝から騒がしいんだけど」

朝のHRが始まる前。 教室に入ると、一目散にあたしの元にやってくる子がいた。

ブロンドのポニーテールを尻尾みたいにゆらしながら、江戸っ子さながら口調。こんな子知らないと言いたいところだけど、あたしの友達だった。

呆れ眼にマミを捉えながら、自席に腰を下ろす。

「ビッグニュース仕入れちゃった」「ビッグニュース?」

彼女もあたしに倣って一個前の席に腰を据えると、声をひそめて。

「ヒロトくんに、カノジョできたみたいなんだよ」「……っ。……へぇ、そう、なんだ」「え、驚かないの?」「べ、別に、あたしもうカノジョじゃないし。そんなことで一々驚いたりしない」

内心、めちゃくちゃ驚いてるけど。

頬杖をつきながら、ガタガタと机が揺れるくらい貧乏ゆすりしちゃってるけど、平静は繕えているはずよ。

「身体が正直すぎてウケるんだけど」「……こ、これは持病の発作的なアレだし。関係ないから。……で、その……それで?」「なにが?」「ひ、ヒロトのことっ。新しいカノジョって誰?」

マミは憎たらしいまでに頬を緩めると、ぐっと前のめりになって。

「あっれぇ明日香さん。元カレのことにすっごい興味津々じゃないですかぁ?」「……っ。アンタから話題に出したんでしょ。責任持って、知ってることは洗いざらい漏れなく話すのが筋だってこと!」「うわあ、ホント素直じゃないな」「いいから早く!」「あぁうん。えっとね、」

マミはあたしの斜め後ろに視線を向ける。

彼女の視線の矛先を確認すると、とある人物と目が合った。

佐倉さん。 あんまり接点はないけど、誰に対しても明るい天真爛漫な子だ。

彼女は、ビクッと肩を跳ねると身体を縮こまらせて、両手に持っていた本に視線を落としていた。

「ヒロトの新しいカノジョって、佐倉さん……?」「そうみたい。つっても確証はないんだけどね、デートしてたって目撃情報が入ったんだよ」

傍から見てデートと断定されているなら、相応の距離感でどこかに出かけていたんだろうな……。

あたしは、キュッと胸が締め付けられる。

佐倉さんかぁ。 あたしとは全然違うタイプだ。

気遣いができて、誰に対しても優しくて、常に笑顔で、明るくて、困っている人を見過ごせない。

それに比べてあたしは、気が強くて、ワガママで、ヒロトのこと困らせてばっかで、全然素直になれないし、自分に甘くて人に厳しい──。

あれ?  客観的に見て、あたしってどこに魅力があるの?

好きになる要素無さすぎない?  あたしが男なら、絶対にカノジョにしたくないんだけど……。