第2話 出会い 02 (1/2)

裏路地。 華やかな市街地でも暗い通りはある。むしろ光が強い程、闇の深さは増していく。 目立たない。 気が付かない。 意識を向けられない。 そのような空間が生じてしまっていた。 そんなに狭い場所ではないにもかかわらず、誰もそこを通らない。 だから人気のない場所となっていき、更にその闇が深くなっていく。 負のスパイラルに陥っている場所。

そんな場所故に――正義感を心に持つとある少女はその場所のことを知っていた。

少女の名は――アカネ。 艶やかな長髪を高い位置で一つに纏めている、齢はまだ十代半ばといった少女。整った容姿をしており、身体は細身で今にも折れそうにも見えるのだが、意志の強そうな大きな目が特徴的でそんな雰囲気を感じさせはしない。 彼女の腰には、一振りの刀が差されていた。彼女の雰囲気に寄り添った、真っ直ぐな刀である。 そんな彼女は通る度に視線を向けていた。その近くに店を構えている陽気な若き店主と雑談している時にさえ気になってしまう程までにもなっていた。 だからこそ、彼女だけが気が付くことが出来た。 その裏路地に、二人組の男に肩を組まれて無理矢理連れて行かれる人の姿があったことを。

「……ごめん。ちょっと荷物を預かってもらってもいい?」「お、おう? 嬢ちゃん、突然どうしたんだ?」「あの路地に無理矢理人が連れて行かれたのが見えたの。助けに行ってきます!」「おいおい嬢ちゃん!」

店主の男性は慌てて彼女を引き止める。

「悪いことは言わないから止めておきな。あそこはガラの悪い奴らが集まっている無法地帯だ。首を突っ込まない方がいいぞ。<ruby><rb>警邏隊</rb><rp>(</rp><rt>けいらたい</rt><rp>)</rp></ruby>に連絡する程度で収めておいた方がいい」「ありがと。でも私の正義の血が騒ぐのよ。ということで!」「おい!」

店主の制止を振り切って、アカネは路地裏へと走って行った。 そして彼女は見つけた。

「そこのあんた達! 何をしているの!?」

アカネは声高々に指を突きつける。 地面に座り込んで怯えた様子の気弱そうな男性と、その男性を取り囲むようにいる二人の人相の悪い男性がいた。勿論、気弱そうな男性が先に連れて行かれたその人だ。

「……ああん?」

人相の悪い一人が目を見開いて脅しを掛けてくる。 だが彼女は逆に睨み返す。

「あんた達は何をしているのか聞いているのよ! 答えなさい!」「何って……男の友情を確かめているだけだよ」

残るもう一人の人相の悪い人物はへらへらと笑いながら、地面に座り込んでいる男性の肩に手を置き、その彼の耳元に口を寄せる。

「……なあ、そうだよな? なあ?」「ひ……っ!」「あっ……男の友情……そうだったのね……」

と、そこでアカネは口元に手を当てて眉尻を下げる。

「そういう関係だったのね……うん。男同士ってのも……否定は……しないけれど……」「違えよ! 何でそうなるんだよ!?」「ひ……っ!」「お前もなに尻を押さえてんだよ!?」「あ、兄貴……」「お前もかよ! ふざけてんじゃねえぞ!」

弱気な男性の近くにいた兄貴と呼ばれた方の悪人相が怒鳴り声を上げる。

「そんなわけねえだろうが! ――てめえ!」

恨みの対象は彼女に向かう。無理もない。誰だってそうなるだろう。 この瞬間はみんなの視線はアカネに向かっている。 だからこそ――狙った通りの展開なのだ。

「逃げなさい! 早く!」

アカネが声を張り上げた。 そこでようやく他の人々も理解したようだ。

「ひっひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

幸いにも最初に意図を理解したのは気弱そうな男性の方であった。彼は素早く立ち上がり、彼女のいる方とは反対側へと一目散に逃げて行った。

「あ、こら待ちやがれ!」「くそ! こんな手に……」

ギリリ、と歯が鳴る音がした。彼らは逃げた男性を追う気はないようだ。 代わりに悪意を向けられるのは、再び彼女に対してだ。

「てめえ……ただですむと思うなよな?」「そうっすね兄貴。この鬱憤の相手を……お、よく見るとこいつ、そこそこ可愛いですぜ」「げへへ……そうだな……」「っ!」

卑猥な視線を浴びせられて、アカネは自分自身の身体を抱きしめる。彼女には姉がおり、並ぶと必ずそれらの視線が吸い込まれていく程に姉が美人でスタイルもいいので、彼女はこういう視線に全く慣れていなかった。

「この……けだもの……っ!?」「待ってください兄貴! こいつ……」「ああ……」

人相の悪い二人は、同時ににやけ顔から真顔になって、彼女のとある一点を指差す。

「「……胸が無い……」」

彼女は、とてもスレンダーな体型であった。

「多少はあるわよ!」「嘘つけ! 多はねえだろ多は!」「色気もねえな、お前、何歳だ?」「十六歳よ!」「十六歳……」「そっか……」「何で憐れみの目で見るのよ! まだ成長の余地ありってことじゃない!」

自分に言い聞かせているようにも聞こえるような悲痛な叫び声をあげているアカネを余所に、兄貴と呼ばれた方が冷めた目線でもう一人に言葉を投げる。

「おい……お前にやるよ、これ。好きにしていいぞ」「ええっ!? 俺だって乳がある方がいいっすよ! そんな幼女趣味はないっす!」「幼女じゃないわよ!」「まあそういうな。きっと小さいのも小さいなりにいいことがあるかもしれないだろ。ほら。試してみろ」「うう……やってみるっす……」「何で嫌々なのよ! っというかいい加減にしなさいよあんた達!」