第15話 動かなかった日付 (1/2)

奇妙なループ物の映画を観ていたような感覚だった。昨日と同じ日の朝を迎え、同様に現想界に赴いて電妖体を斬っていく。周囲で聞くデジャヴとはこの状態が幾度となく繰り返されることを指すのだろうか、そう加奈は考えていた。  気温の上がった現想界で正午を過ぎた頃、加奈は守護士の集まる拠点を目指して歩いていた。そこは偶然にも夢の中に出てきた光景が広がっていたが、唯一異なっていた点としては蕎麦屋がないことだった。やはり、あの蕎麦の味は夢の中でしか再現できなかった一品だったのだろう。

「石本さーん!」

蕎麦屋の代わりに遠くから姿を見せたのは巧一朗だった。

加奈の前では相変わらず快活で、夢の中で見た本人と一致するかわからないほどだった。

「巧一朗か。首尾はどうだ?」

「拠点の防衛と電妖体の残党の駆逐は共に成功しています。問題ないっすね」

忠犬のように駆け寄ってきた巧一朗に、加奈は労いの言葉をかけると、彼は神妙な面持ちで話を始めた。

加奈は巧一朗に歩幅を合わせながら拠点へ向かって再び歩き出した。

しばらく歩いていると安全であることを確認した巧一朗が話を切り出す。

「昨日変な夢見たんすよ。今日と同じ日付に石本さんと謎の女の子に出会って昼飯を食ってたんです。それに今日の現場がここっすよ? 偶然にしては既視感が満載じゃないっすか?」

加奈は首を捻った。巧一朗の話した夢の内容と加奈の夢の内容が概ね一致していたからだ。

「——君も見たのか?」

「見たって、まさか石本さんも……」

「そうだ。同じ女の子に会っているだろう」

「確か、麻依ちゃんって言ってましたね」

加奈が昨日見たと思われる夢にも麻依は確かに存在した。顔も背丈も声もすべてが彼女だった。

「何について話したかまでも憶えているか?」

「いや、忘れちまいました。俺の経歴を話したような記憶はあるんすけど、現実じゃああんまり言いたくない事っすね……」

巧一朗の過去はあまり他人が聞いて心地の良い話ではない。その証拠に、加奈の夢の中では同様に過去を振り返った麻依が必死に涙を堪えていた。

「電妖体関連で口外するのは憚られるからな。私も消極的だ」

巧一朗の話した過去は加奈も長い付き合いの中で認知しており、度々度を越した電妖体の駆逐を行うたびにサイバーアーツを解除したところで理由を聞き出す機会が多かった。

守護士がひとたび好戦的な性格に豹変すると、巧一朗のような強い私怨を持つ守護士は完膚なきまでに電妖体をめった刺しにするなど、異常とも思える殺意を見せる事例が後を絶たない。単独行動に慣れないうちは戦闘中に孤立する可能性も高いため、サイバーアーツに対する重点的な訓練を続ける必要があった。

「暗すぎる俺の過去はいいとして、石本さんは麻依ちゃんと繋がりがあったんすか?」

「まぁ、ちょっとした知り合いだ」と、加奈は言葉を濁した。

「俺も麻依ちゃんとはどこかで会ったような気がするんすよね。でも、まったく思い出せないっす」

「あの子は現想界を旅しているんだ。この仕事を担っている以上、どこかしらで目にしたんだろう」

絶えず荒廃した異世界において、守護士以外では武器商人や修理士、そして守護士と同等に力を持つ旅人くらいしかいない。何十人と居合わせた赤の他人の中に麻依が混ざっていても何の違和感もない。彼女がサイバーアーツの使い手として若すぎるところをというイレギュラーを除けば、の話だが。

「今度会えたらデートに誘ってみようかなぁ、なんて」