第275話 船待ち(3日目) (1/2)

午前中に<ruby><rb>下足</rb><rp>(</rp><rt>げそ</rt><rp>)</rp></ruby>の皮を干した物を洗浄魔法で綺麗にして、領主が準備した樽に水球を作り出して再び水を含ませた。 正確には含ませている最中だ、乾くのは早かったが、再び吸水させるのは時間が掛かりそうなので放置してきたのである。

そんな訳で午後は昼食を軽めに済ませ、宿屋で夕食の仕込み前の厨房を借りてイカのおつまみとオヤツ作りだ。 シンプルにバター醤油で焼いたものと、焼いてチーズをトロリさせたものと、薄く生地を焼いてイカとチーズとお好みソースとマヨネーズを乗せて半折りにしたものと…、いくら作っても材料が尽きる事が無い。

味見はするけど、食べずにストレージにどんどんストックしていく、夕食の仕込みがあるから厨房を使わせて貰える時間は限られているのだ。 昼食で使った食器や調理器具を洗浄魔法で綺麗にしたから使える時間は多少長くなったけど。

「あ、あの~、賢者様…」

「ん?」

厨房が使える時間が終わる頃、宿屋の料理長が申し訳無さそうに声を掛けて来た。

「大変申し上げにくいのですが、今調理していた材料がまだあるのなら分けて頂く事は可能でしょうか…?」

「ええ、まだまだあるから良いよ、どれくらい必要?」

「本当ですか!? ありがとうございます!! 実は表が大変な事になっておりまして…」

料理長は振り返る様に宿屋の入り口に視線を向けた、どういう事かとヒョイと覗くと入り口前にすごい<ruby><rb>人集</rb><rp>(</rp><rt>ひとだか</rt><rp>)</rp></ruby>りができている。

「えぇっ!? 何で!?」

「どうやら嗅ぎ慣れないけれど良い匂いに釣られて段々と集まって来た様です。皆ここで食べれると思って夕食の営業にはまだ早いというのに並び始めているので、これで食べられないとなると暴動が起きるのでは…と。ですので是非とも材料と作り方を私達に提供して頂けないでしょうか!?」

<ruby><rb>大氾濫</rb><rp>(</rp><rt>スタンピード</rt><rp>)</rp></ruby>のカレー状態再びというところか…。 そういえば市場で私の感覚からすると食べるのを<ruby><rb>躊躇</rb><rp>(</rp><rt>ちゅうちょ</rt><rp>)</rp></ruby>しそうな色鮮やかな魚は見かけたけど、イカやタコは見てない気がする。 私は1m程の足を1本取り出した。

「使わない分は切って冷凍しておけるから、とりあえずコレを今日使う分だけひと口大に切り分けておいてくれる? その間にレシピを商業ギルドに登録して来るから。あっ、そうそう、材料費はそっちで決めてね、海の魔物だし値段の相場が全然わからないから」

「は、はぁ…」

そして私はレシピを書き出すと、作った物の試食権利と引き換えにエリアスを連れ出して商業ギルドへ向かった。 ちなみにあの人集りをかき分けて出て行く勇気は無かったので裏口からこっそり脱出。

「ハァ!? 賢者だって? 衛兵に捕まる前にそんなお遊びはやめるんだな」

商業ギルドの受付でレシピの登録をしたいと申し込もうとしたら呆れた様な目を向けられた。

「いや、あの、本物なんだけどなぁ。僕達の姿絵ってこっちの方までは来てないって事かな? こんな事なら聖騎士の誰かについて来て貰えばよかったね。アイル、国王から貰った許可証と<ruby><rb>冒険者証</rb><rp>(</rp><rt>ギルドカード</rt><rp>)</rp></ruby>見せてあげなよ」

「わかった」

エリアスに促されてパルテナとコルバドで貰った<ruby><rb>玉璽</rb><rp>(</rp><rt>ぎょくじ</rt><rp>)</rp></ruby>の押された許可証と冒険者証をストレージから取り出した。 その時点で受付のお兄さんは目をこれでもかと見開く。