クーパー商会の裏の顔 (1/2)

ブランドンは血走った目を客に向けた。 新しい商品。裏の商売で取り扱う商品のことだ。やはり、それが目当てだったのか。 自分の予想が見事に当たったというのに、ブランドンは得意になる元気もなかった。

「……では、準備してまいります。しばらくお時間をいただけますか」

丁度いいところで用心棒――禿頭の金壺眼――がワゴンにワインセットを乗せてやってきた。ちなみに、裏稼業で使うこの部屋に出入りするのは男だけだ。違法性の高い商品を取り扱う場所に女性の使用人がいると、高額商品を購入し<ruby><rb>高揚</rb><rp>(</rp><rt>ハイ</rt><rp>)</rp></ruby>になった客からちょっかいを出される恐れがあり、それを避けるための措置だった。冷血漢として名高いブランドンだが、実は従業員からの評判は悪くない。

「時間? どれくらい待てばいいんだ」「そうですね……最短でも一時間程度は。お客様の前にお出しするにも支度が必要ですので、酒でも飲みながらお待ちください。なあに、赤は抜栓してから時間を置いたほうがいいでしょうが、発泡ワインはすぐにお飲みいただけます。大したつまみはありませんが、当たり年の――」「駄目だ」

鞭のような鋭さでミスター・Aが遮った。

「今すぐ連れてきてくれ」「しかし、支度が」「支度などしなくて構わない。ブランドン、<ruby><rb>今</rb><rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>す</rb><rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>ぐ</rb><rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>だ」  短い時間ではあるが、ブランドンはこの客が決して意見を変えないことを嫌と言うほど思い知らされていた。深い深いため息をつき、ブランドンはまだ部屋にいた用心棒に指示を出す。

「後悔なさっても知りませんよ」「後悔などするものか」

もはや抵抗する気にもなれないブランドンの指示のとおり、商品はすぐにやってきた。表の商いでは決して使われない秘密の部屋の奧、一番の出物を客が品定めするために設えた舞台の上に、上手から二人の少年が連れ出される。ミスター・Aの青い瞳が大きく見開かれた。

一目で血縁があると分かる、小作りの整った顔がよく似た二人だ。シャツは変色し髪はもつれ、顔色が分からないほど汚れているところを見れば、少なくともここ数週間は路上で生活していたのだと察せられる。 兄の方は十五、六歳といったところか。汚れすぎて判別が難しいが、プラチナブロンドらしき髪は肩につく長さのざんばらで、大きな瞳は淡い菫色だ。人形めいた雰囲気があるのは、手足が華奢で顔が小さいからかもしれない。 もう一人はまだ十にもなっていないだろう。兄と同じ髪と瞳の色。髪だけはもっと短く、形よい頭の周りをくるくるとした巻き毛が覆っているが、汚れ具合は似たようなものだ。怯えた顔をしてしがみつくのを、兄が庇うようにしてしっかりと抱きかかえていた。 うす汚れてはいるが、おそらく二人とも生まれは悪くない。どことなく漂う気品と、菫色の瞳に宿る知性からもそれは明らかだった。

「ご覧のとおり大変美しい兄弟です。今はこんなですが、風呂に入れて磨き立てればその筋の趣味のお方にとって、二度とないような出物であることは間違いありません」

クーパー商会の裏の顔。ブランドンが扱う違法取引の中で最も人気があり、最も利潤の大きな商売が人身売買だ。