精霊界での1日目。 (1/2)

今日は、何月の何日なのだろう…?

- ドーン -

また、地響きが起きた。爆弾か? ミサイルか?同国内で戦争を起こす程、醜いものはない。同じ国民であり、同じ人間であるのに…。戦争が激化したのは最近だが、何月の何日かまでは正確には分からない。私は今、ただ一人の中立軍として存在している。勿論、この場所での話で、他の場所にも中立軍は居るかもしれない。もともと、この中立軍を作ったのは私だが、私についてきた者達も残酷な時間の流れによって、命を落としていった。ある者は、中立軍としてただ身を潜めるだけと言う生活が耐えられなくなり自分の支持する軍に入った。ある者は、身を隠している場所を発見され、その後はどうなったかは分からない。最悪、殺されているだろう…。もしかしたら、中立軍として生き残っているのは私だけかもしれない。食料も水も、あと何日もつかは分からないが数日間はもつだろう。カレンダーも無い、電気も無い。不便な生活。一人で過ごすには、ここは広すぎる空間だ。夜になると精神状態が不安定になる。安心して夜も眠れない。とは言っても人間、少しは寝ないと身体がもたない。今日も恐怖に怯え、見つからない事を信じて眠りにつこう………。

- ゴトッ! -

何かの物音で目が覚めた。時刻は、何時だろう?時計も無いが、深夜である事は間違いない。間違いなく今、私の居る空間と同じ空間に何者かが居る。まさか、動物ではないだろう。電気も無い真っ暗な空間に足音が近づいてくる。徐々に明るくなる空間。人間だ。ついに、私も死の覚悟を決めなければならない時が来た。これ以上の隠れようはない。現実を受け入れよう…。光をまとった人間が現れた。何かがおかしい。外から来たにしては、あまりに無防備すぎる姿。服も綺麗で傷一つ負っていない女性。髪は、ロングヘアーでサラサラとしている。身長は、それほど高くはない。優しそうな印象を受ける。武器を持っているのに、私に武器を向けてこない。私の目の前に立った女性は、武器を投げ私の前に落とした。私を殺す気どころか戦う気も無いらしい。

私  「・・・・・。」

女性 「・・・・・・・。」

少しの間の沈黙も女性の一言で幕を閉じた。

女性 「さぁ、行きましょう。」

私は、呆然とした。行きましょうと言われても、この空間から外へ出るのは、かなりの危険行為。命を捨てに行くようなものである。

私  「行きましょうって、何処へ? それに、あなたは何者ですか?」

頭に浮かんだ疑問を、そのまま声に出してしまった。何処に行くのかも気になるし、この女性が何者なのかも気になる。冷静に考えてみても、この女性には不思議な点が多すぎる。この質問に少し失礼かもしれないとは思うが、逆に声に出して良かったかもとは思う。

女性  「あ、すみません…。 私の名前は、レイです。      レイとお呼びください。」

私   「私は…。」

私の事も話そうとしたが、レイは話す隙を与えず、更に話し出した。

レイ  「あなたの事は、ある程度は知っています。 あなたは、私達の事を     知らないと思いますが…。」

私達?仲間が居るのだろうか?敵とも思えないし、中立軍でもなさそうだ。

私   「とりあえず、外から来たのに何故、無傷なんだ?」

レイ  「あ、それは、私が精霊だからです☆」

レイは自信を持って、精霊です☆と言っているが…。またもや、私は呆然としてしまった。疑問が次々とわき出てしまう。

私   「ところで、行くって何処へ?     ここから一歩でも外へ出たら、命の保証はない…。     私は、中立軍として戦わず、ここに身を潜めてきた。」

レイ  「あなたには、精霊界に来ていただきます。     まだ、理解は出来ないかもしれませんが、あなたは本来     この世界の住人では無いのです。」

私は、聞き方を誤ってしまったのだろうか?更に疑問と言うか、謎が深まってしまった。どっちにしても、この空間から外に出るなんて私には考えられない。危険すぎる。私が考えているところに、レイは更に話しかけてきた。

レイ  「私が持ってきた武器。 それで、なんとかなると思います。」

レイが持ってきた武器、これはマシンガン?私は、戦わない事を選んだため、扱い方が分からない。トリガーを引けば、撃てるならまだマシだが、安全装置がついていて解除しなければならないのであれば、安全装置の外し方から考えないといけない。私が外に出る事を断っても、レイは無理矢理にでも連れ出すだろう。答えは分かりきっているが、それでも私は質問を投げかける。

私   「私が断っても、連れて行くのか?」

レイ  「勿論です。(笑)」

レイは、笑顔で返した。とりあえず、外へ出るなら今の時間が適切だ。昼間よりは、少しは安全だと思う。マシンガンを試し撃ちしてみることにした。撃てないのが分かっていて外に出るのは、かなりの危険行為だ。試し撃ち、うまく出来れば良いけど…。

私   「ちょっと、試し撃ちしてみる…。」

- カチッ カチッ カチッ -

どうやら、弾切れのようだ。結局、ここにある唯一の武器、マシンガンも持たずに手ぶらで外に出る事になる。

私   「あの…、弾が無い。」

レイ  「あー、なんとかなります。」

何がなんとかなるのだろうか?視線を横にそらして、自信が無さそうなレイ。

レイ  「とりあえず、それを持っているだけでも効果はありますよ!     弾の入っていない武器を持っているなんて、誰も予想しませんから。」

私   「確かに、そう言われたらそうだけど…。     これ、意外に重い。 外に出てから、かなりの距離があるのか?」

レイ  「いえ、歩いて7分くらいです。」

7分間。外の状態が今、どんな状態になっているのか予想すら出来ないが、おそらく悲惨な状態であろう。そんな中、7分間も生きていられるのだろうか?幸いにも弾が無いとは言え一応、武器を持っているのだから中立軍だとは思われないだろう。あとは、敵味方の区別を外の人間達がどう判断しているのかが分からない。そう言えば、精霊界って、どういう世界なのだろう?聞き辛いが、どうせ連れて行かれるなら聞いてみよう。

私   「精霊界って、安全な場所なのか?」

レイ  「安全もなにも同族、精霊同士の争いはありませんし…。     分かりやすく言うなら、同族と言うのはこの世界で例えるなら     人間同士の争いになりますね。     文化が違っても、同じ国の中でも争いなんてありません。     ただ………。」

レイは、少し複雑そうな顔をして言葉を止めた。今は、あまり言いたくはないのだろう。私も深くは追求しない事にした。とりあえず、この世界よりは安心できそうだ。

私   「言いたくないなら今は言わなくて良い。     精霊界に行く事を受け入れよう。」

レイ  「はい。 歓迎しますよ。」

私   「歓迎もなにも、そこまでたどり着けるかが怪しいけど…。」

レイ  「たどり着ける可能性は、50%です!」

レイは、笑顔で答えたが…。50%って一番、無難な数字過ぎる。(汗)成功の可能性は半分か…。 せめて、70%くらいは欲しいところだな。そんな事を思っていると、レイが更に話を進めた。

レイ  「ただし、それは、あなたがそのままで外に出た場合の確率です。     私が用意した精霊界への入り口までの道中。     私とあなたの分のシールドを張ります。     シールドは、数発の弾なら防げます。     透明なシールドなので目には見えませんが、シールドの状態は     私が報告しますので、ご安心を☆」

私   「分かった。 ぇ?」

レイ  「はい?」

更に私の中で疑問が生まれてしまった。精霊界への入り口を用意している?何故、離れた場所にわざわざ入り口を用意して自分の身を危険に晒してまでここまで来たのだろう?私の、【ぇ?】と言う発言に対して、レイが疑問を持っている。

私   「精霊界への入り口を用意した?」

レイ  「はい…。」

私   「何故、ここに用意しなかったんだ?」

レイ  「鋭いですね。実は私、まだまだ精霊の力を使いこなせなくて     所謂、見習いのようなものです。ここに繋げようとして失敗しました。     ちなみに、完全に使いこなせるようになったら、シールドだって     完璧に作れて、ちょっとやそっとの銃弾は防げますよ♪     そうなれば、100%、無事に行けますね☆」

この人? 精霊は、天然なのだろうか…?今は見習いと言う事で、やはり100%、無事には行けないのか…。

私   「ちなみに今、無事に行ける可能性は何%だ?」

レイ  「秘密です☆」

私   「ぉぃ!」

華麗にツッコミを入れてしまった。間違いない。天然キャラ、レイ。そう言う風に思っておこう。

レイ  「それでは、行きますか?」

私   「あぁ…。」

そう言うと、レイは私にシールドを張った。透明なシールドが故、見えない。本当に、そこにシールドがあるのかも分からない。まぁ、レイは無傷でここまで来たのだから、レイにはシールドが見えるのだろう。私は重いマシンガンを抱え、歩き始めた。

- ドーン -

また、爆弾かミサイルが落ちたらしい。地面が地味に揺れる。この空間から一歩外は、本当に酷い世界なのだろう。そう思うと、この空間から外へ出たくないという気持ちが強まっていく。見つかって、命を落とす覚悟までしていたのに、精霊に護られていると言う不思議な感覚。まぁ、残酷な人間に見つかるよりはよっぽど、マシなのかもしれない。囚われていたかもしれないし、殺されていたかもしれない。はたまた、どちらかの軍に入れられていたのかもしれない。中立軍に対する世間の目は、かなり冷たいものだ。どちらにもつかず、ただただ身の安全だけを求めて身を潜めている。そんな存在は、彼らからしたら邪魔でしかないのであろう。

私   「ちなみに、一つ聞くが、爆弾やミサイルとかの被害はこのシールドで     防げるのか?」

レイ  「爆弾やミサイルの直撃は、流石に防ぎきれません。     ただ、直撃の可能性は、かなり低いですよ。     近くに落ちた時の爆風なんかは、対処できますのでご安心を…。」

私   「それを聞いて、少し安心したよ。」

それほど、弱いシールドでもないらしい。しかし、7分間は短いようで長そうだ。ついに、扉の前まで来てしまった。この扉から先は、私にも予想のつかない世界が広がっている。私は覚悟を決めて、扉を開けた。そして、周囲を確認して一歩を踏み出した。周囲は暗くて、あまり物は見えないが、だんだんと目が順応する。高層ビルは、崩れ…。崩れていなくても、建っているのがやっとの状態で今にも崩れそうだ。小さい家は、崩壊している。コンクリートの地面も滅茶苦茶になっている。この近くには、人気がない。先程の爆弾かミサイルが落ちた場所も、この辺りと言うよりちょっと距離が離れた場所だったのだろう。それでも、安心は出来ない。何処に人間が潜んでいるか分からない、警戒態勢は精霊界に行くまでは解除する訳にはいかない。気付かれないよう、慎重に進んでいく。時には、壁に身を潜めたりする。私が一歩を踏み出した時、レイが私を止めた。

レイ  「待って…。」

言われるがまま、待っていたら影から人間が現れた。銃を持っているのが分かる。ライトも持っている。照らされたら、確実に終わりだ。

私   「なんで、分かった?」

レイ  「私は、精霊です。人間では、気付けないところも分かったりします。」

なるほど、人間と精霊では感じ方にも違いがあるのか…。これなら、精霊界の入り口まで生き延びられる可能性は更に高くなるな。

レイ  「もう、大丈夫です。 行きましょう。」

私   「あぁ…。」

そう言えば、確かにレイは強力なサポートはしてくれているが、レイの姿が人目に触れた日には皆、驚くだろうな。ライトに照らされている人間を見る限り、すでに服もボロボロになっている。そんな中、ほぼ新品の様な服をまとっているレイは不思議な存在だろう。逆に彼らからしたら、恐怖を覚えるかもしれない。この戦いの中、そんな人間がまだ居たのかと…。中立軍にも間違えられかねない。とにかく、今は早く精霊界への入り口までたどり着きたい。レイの案内の通りに、突き進んでいく。

レイ  「隠れましょう。」

私   「また、人か?」

レイ  「動物かもしれませんが、気配を感じます。」

動物であれば特に隠れる必要も無いが、安全の為にはやむを得ない。息を潜めて隠れた。何者かの足音が聞こえる。それも、複数の…。おそらく、人間だろう。話し声も聞こえてきたが、何を話しているのかまでは聞き取れない。ライトの明かりが地面を照らす。男二人組の姿が見える。見回りでもしているのだろうか?こんな戦いの中でも、笑顔で話せるなんて、どういう神経なのか…。

- ドーン -

外でこの音を聞くのは久しぶりだ。男二人組は、音のした方へ走って行った。外にいても爆弾なのかミサイルなのかは、分からない。もしかしたら、新しい武器かもしれない。爆発音のした方向に目を向けると、空が少し明るい。犠牲者が出ていない事を祈る。

レイ  「さぁ、進みましょう…。」

私   「あぁ…。」

レイに言われるまま、レイの進む方向へと身を任せる。隠れながら突き進む我々は、戦いがない時だったら、滅茶苦茶怪しい不審者だ。それにしても、足の裏が痛い。大きな石や木が散乱している。気をつけて歩かないと捻挫してしまう。

レイ  「隠れてください。」

私   「またか?」

レイ  「精霊界の入り口から出てきた時は、これほど人は居なかったのですが     今は結構、居るみたいです。勿論、動物の可能性もありますが…。」

私   「安全が一番と言う事か?」

レイ  「はい、その方がシールドも保護できますし、いざと言う時にこそシールド     を使うのがベストかと思います。まぁ、私が完全なシールドを作れたら、     そんな面倒な事しなくても堂々と突き進めるのですが…。」

私   「まぁ、無事にたどり着ければ、それで良いよ。」

あと何回、身を潜めることになるのだろうか?普通に行けば、7分程度の場所なのに…。もうすでに、余裕で7分は経過している。気のせいか、銃撃戦の音は、ほとんどしない。思っていたより、外の世界は静かだ。もうここまで、建物も破壊されていては攻撃する価値も無いのだろう。見回りをして敵が居たら対応するくらいの感じなのかもしれない。また、足音が近づいてくる。だいたいの感じは掴めてきた。人の足音、そして近づいてきたら必ずライトの光が見える。通り過ぎるのを待ち、再び突き進んで行く。それの繰り返し。かなり地味な作業だが、失敗すると命に関わる。地味なはずなのに真剣である。シールドに護られてはいるが、今のところはシールドも活用せずにきている。

私   「そろそろ、進むか?」

レイ  「いえ、まだです。 まだ、近づいてくる気配がします。」

私   「そうか…。」

見回りなのか? 何なのか?彼らはただ、何の根拠もなく歩き回っているだけのような気がする。見つかると、どうなるのだろう?一応、武器も持っているし最悪の場合は攻撃されるのか?

レイ  「こっちには、来ませんでした。 進みましょう。」

私   「了解。」

幸いにもこっちに向かってくる途中で、来る方向を変えたらしい。その方が危険も回避できるし、ありがたい。しばらく進むと、池に出た。こんな所に、池などあっただろうか?でも、目の前に広がっているのは池以外の何物でもない。

レイ  「それでは、ここを渡ります。」

私   「ぇ?」

私だけなのか? 私はまた、呆然としてしまった。池を渡るって? しかも、間違いなくレイの指さす方向は池のど真ん中。泳げとでも言うのだろうか?日中ですら、泳ぐのは怖い。おまけに、今はまだ暗い。

私   「泳いで渡れと…?」

レイ  「いえ、私の力で浮いたまま行けますよ?」

私   「それ、確実に危ないって…。(汗) 池のど真ん中だよ?」

レイ  「あ~、それもそうか…。 ごめんなさい。」

少しへこんでいるようにも見えたが、ここまで来てそんな目立つような行動は出来ない。池のど真ん中なんて、的になるようなものだ。池の周囲を進む事にした。流石に池の周囲となると、何か鳥でも犬でも出そうな感じがする。足音を立てないように、慎重に歩く。池の周囲とは言え、身を潜められそうなところはある。瓦礫とかトラックで運搬してきたのだろう。

私   「この付近にも人の気配はあるのか?」

レイ  「分かりません。 水の音で少し感覚が狂います。」

私   「私には、水の音は感じられないが?」

レイ  「普通の人間には、分かりませんよ。 あなたは、別ですけどね。     まぁ、そのうち分かるでしょう。」

私   「そのうちって…?」

レイは、意味深な言葉を放った。そして、私の疑問は華麗にスルーされた。

レイ  「人の気配がします。 あそこに隠れましょう。」

私   「了解。」

だいぶん、武器を持つ腕が疲れてきた。最初は、軽々しく持てても時間が経過するにつれ同じ重さのはずなのに、重くなってくる。これは、人が居なくても隠れて腕を休ませる事になるかもしれない。身を隠していると、足音が近づいてきた。もう、同じパターンだ。ライトの光で分かる。すると、何を思ったのかライトを我々の居る方に向けてきた。気付かれたか…!?息を潜めてじっとする。どうやら、バレてはいなかったようだ。それにしても焦る。嫌な汗をかいてしまった。

レイ  「危なかったですね。」

私   「あぁ、気付かれたかと思ったよ。」

レイ  「ギリギリセーフですね。」

私   「とりあえず、精霊界への入り口までは、まだ距離はあるのか?」

レイ  「もう少しですよ。」

私   「そうか、近いようで遠いな。」

レイ  「そうですね。 私も、こんなに距離があったのかって感じですよ。」

私   「そろそろ、進んでも大丈夫か?」

レイ  「はい、大丈夫です。かなり近くに人が来ないと、気配を感じられない事が     分かりました。慎重に行きますね。」私   「あぁ、頼む。」

瓦礫に身を潜めつつ、進んでいく。やはり、足の裏も痛い。少し休憩が欲しい。

私   「少し休憩をとりたい。 足の裏も痛いし、何せ武器のせいで腕も     休めたい。レイは、大丈夫なのか?」

レイ  「あぁ、私も痛いですけど、早く安全なところに行きたい気持ちの方が     勝ってますね。腕が疲れているのでしたら、少し休憩をとりましょう。     あと少しで、精霊界の入り口にもつけますし、入り口に関しては     建築物の中に開いていますので、そこまで行けば安心です。」

私   「そうだな。」

案の定、この危険な中、休憩をとる事になってしまった。これ、弾が入っている状態だったら相当、重いな。こんなのを持って見回りしている奴らは相当、身体を鍛えているのだろう。それか、何か持ち方とかあるのか?腕が疲れないような?そんなのがあるなら、教えて欲しいくらいだ。これは、明日は筋肉痛だな。そもそも、安全な空間で過ごしてきたから普通の人よりも体力は落ちているかもしれない。やっぱり、人間は運動をしないとダメになるな。精霊界に行ったら少し運動とかしてみるか…。いや、そんな事より精霊界の食べ物とか飲み物とか私の身体は対応できるのか?謎ばかりだな。(汗)

レイ  「そろそろ、行けますか?」

私   「もう歩けません。」

レイ  「えぇっ!? そんな…。」

レイが凄く驚いている。真に受けるとは思わなかった。

私   「冗談だ。」

レイ  「心臓に悪いですよ、それ…。」

レイが、ほっとする。まぁ、流石に度の越えた冗談だったか。

私   「さぁ、行きますか?」

レイ  「はい、あと少し頑張ってください。」

そしてまた、進み始めた。池の周囲をぐるっとまわって、反対側についた。確かに池のど真ん中を突っ切れたら、どれだけ楽だった事か…。そこからの景色はまた、一変していた。この池が対立の境界線なのか、全く風景が違う。我々が歩いてきた方向の建築物は、ほぼ壊滅的だったのに対し、こちら側の建築物は、まだ損傷の程度が軽いように思える。たまに、建築物に明かりが見える所もあるが、おそらく基地のようなものだろう。人が生活している雰囲気はある。ただ、運の悪い事に人の数も少し多い。見つかる可能性も高くなる。早く、安全な場所へ行きたい。

レイ  「あの建築物の中に、精霊界への入り口があります。」

レイが指さす方向を見ると、その建築物は破壊されていた。その建築物の地下に入り口が開いていて、地下には誰も居ないと言う。

レイ  「おかしいですね。私が来た時より、人の数が多いです。」

私   「夜明けが近いのかもしれないな。時計が無いから分からないが…。」

レイ  「ぇ? 夜が明けたら、もっと人が増えますか?」

私   「それは、増えるだろう。」

レイ  「あと少しなので、急がなければなりませんね。」

私   「あぁ、そうだな。 でも、慌てると良い事は無いからくれぐれも     慎重に行くぞ?」

レイ  「はい、分かりました。私の感覚も元に戻ると思いますので…。」

今まで歩いてきた道よりも遥かに危険な気がする。人の数が少し多いだけでも脅威だ。おまけに、武器はあるが、見せかけだけ。私には弾が入っていたとしても人に向けて撃つ事など考えられない。弾が無くて、正解だな。おそらく、ここから先は瓦礫とか崩壊した建築物とかも言うほどは無い。普通に建築物の影に身を隠すしか無いのだろう。ゲームで言う所のラスボス前か?そんな雰囲気だ。

レイ  「あそこに隠れましょう。 人の気配がします。」

私   「あぁ…。」

建築物の影に身を潜める。人の歩く音と共に、エンジン音まで聞こえてくる。エンジン音からして車。まだ、走れる車が残っていたのか…。日中になると空からの攻撃もあるかもしれない。今のうちに、精霊界の入り口へ到達しておく方が身のためだ。

- ドーン -

- ドドドドドッ…。 ドーン…。 -

かなり近くで、爆発が起きたらしい。爆風を少し感じたように思える。砂煙が酷い。先程の車のエンジン音が消えた。近くに止まったらしい。早く、この辺りから抜け出さなければ見つかるのも時間の問題になってしまう。

私   「別の所に身を潜めよう。 ここは、危険だ。」

レイ  「ぇ? でも…。 危険ですよ。」

私   「流石に、ここに居るよりは安全だと思う。」

レイ  「分かりました。」

そして、危険だと分かりつつも別の建物の影に身を潜めた。普通に歩けば、そんなに時間もかからない建物へ行くのにかなりの時間を要する。それにしても、これ…。普通でも7分の距離ではないような気がする。精霊と人間とでは、時間のとらえ方も違うのか?

私   「なぁ? 精霊と人間とでは時間のとらえ方は違うのか?」

レイ  「いえ、ほとんど同じだと思いますよ?」

私   「この距離、普通に歩いても7分では無理じゃないか?」

レイ  「私も時計を持っていないので感覚で言いましたが、確かに7分では     無理がありましたね。ごめんなさい。」

私   「いや、別に謝る必要はない。 外に出たら、時間なんて気にする余裕は     誰も持てないよ。感覚でも大幅に狂ってしまう。」

この危険な外、時間なんて関係ないのは事実。大事なのは、生きている事。ただ、それだけだろう。

レイ  「さて、進みましょう。ここから先は、精霊界の入り口を用意している     建物まで身を潜められそうな所はありません。走って行くしかないで     す。」

レイの言う通り、目と鼻の先にあるような建物までは近くて遠い距離。身を潜める場所が無いと言う事は見つかれば終わり。あとは、シールドに頼るしかないと言う事になる。

私   「ここから先、もし見つかって攻撃を受けたとすれば、シールドの力を     信じるしかないと言う事か?」

レイ  「はい、そうなります。でも、ここまでシールドを使用していません。      突破できますよ。」

私   「シールドの強度を信じよう。じゃあ、行くか…。」

レイ  「はい、行きましょうっ!」

私とレイは、出来る限り足音を立てず走って建物に向かった。が、運が悪い事に見つかってしまった。

レイ  「人の気配がします。そのまま、走り続けてください。」

軍人A 「おい! 待てっ!」

軍人が現れた。ライトでこちらを照らし、銃を向けてくる。

軍人A 「止まれ!止まらないのなら撃つぞっ!」

勿論、こちらは止まるわけもない。そのまま走り続けた。

- ズキューン -

何のためらいもなく、軍人は弾を撃ち込んできた。弾は、シールドによってはじかれ傷を負う事は無かった。シールドが無かったら、確実に大怪我をしていた。

軍人A 「こいつら、何者だ? 不審者を見つけた。至急、応援を頼む!」

軍人は、無線機を使い仲間を呼んだ。私とレイは、そのまま建物に向かって走り続けた。軍人からしたら、命中したはずの弾がはじかれた。それだけでも、我々を普通ではないと思っているのだろう。仲間を呼ぶ声に、驚きが混じっている。

レイ  「人の気配がします。おそらく、応援でしょうが1人です。     これなら、なんとかなります。」

私   「武器が重い…。あと少しだから、頑張れるけど…。」

軍人A 「止まれ。 止まれ~!」

軍人B 「不審者は、あいつらか!?」

レイの言うとおり、応援で来たのだろう。軍人が1人、増えてしまった。建物までは、あと少し。

- ズキューン ズキューン -

二発の弾が撃たれたが、一発は外れ、一発はシールドにはじかれた。

軍人B 「何故だ!? 当たったはずなのに、なんであいつら無傷なんだ?」

軍人A 「分からない。とにかく、不審者だ。捕まえる。」

軍人B 「了解!」

軍人との距離はあるが、建物の中まで侵入されると厄介な事になる。そもそも、建物内に人が居ない保証はない。まぁ、そこまで考えていたら何も出来ないか…。

レイ  「建物の入り口に入ったら、入り口にシールドを張ります。     それで、時間を稼げますから…。」

私   「とりあえず、安全第一で行こう。」