精霊界での9日目。 (1/2)

- シャーーーーーーッ -

聞き慣れない音で目が覚めた。皆、この音で起きたらしい。ノイルは相変わらず早起きだ。すでに、料理の準備にかかっている。

ミリア 「この音、なんですか?」

ノイル 「この辺りに住む鳥だろ?」

誰よりも早く、ノイルがその答えを出した。ノイルは確か、生物には詳しい。悪意がある鳴き声にも聞こえないし、それで良いか。

サシャ 「目覚めがわる~い。 この鳴き声…。」

レイ  「精霊の生活圏に戻りたいなぁ…。」

私   「悪魔のような存在の本体を消し去れば、すぐに戻れるさ。」

ノイル 「今日、決着がつくとは限らないだろ?」

私   「それは、そうだが…。」

ノイルは、冷静だ。私も正直、精霊の生活圏で平和に暮らしたい。ここは、色々と危険だ。精霊も住めない訳だ。

ノイル 「とりあえず、お前ら夜遅くまでゲームしていただろ?     目を覚ますための飲み物も作ってやったから飲め。」

そう言うと、ノイルは全員に飲み物を配った。はっきり言って、緑色で臭い。いったい、これは何なのだろう?精霊界に来て、初めてのはずれかもしれない。飲んでみると、まずかった。

私   「ノイル。 まずい! これは、まずい!」

レイ  「何これ…。」

サシャ 「美味しくない…。」

ミリア 「これは、薬草。 まずっ…。」

ノイル 「昨日、薬草が生えている所を見つけたんだよ。     お前ら、どうせゲームしてグダグダな朝を迎えると思ってな。     まぁ、安心しろ。その薬草は体力を回復させる力もある。     それに、今朝の朝飯だが、皆が最大の力を発揮できるように     考えたメニューだ。俺もこんな生活は嫌だからな。     今日で全てを終わらせて帰る。ただ、それだけだ…。」

ノイルのくせに格好良い事を言っている。でも、正直、この飲み物は無いわぁ。初めてのはずれだ。まずい。でも、良薬は口に苦しとか言うし良薬であった事を祈ろう。それにしても、ノイルの料理は美味しい。朝食にこんなに美味しいものをいただけるとは…。

- ドンッ! ドンッ!! -

皆と朝食をとっている最中、建物を叩く音が聞こえた。

レイ  「何!?」

ミリア 「何か、外に居ます!」

サシャ 「悪魔のような存在が向こうから来たかな~?」

ノイル 「・・・・・。 食事は終わりだな。」

ミリア 「どうしよう…。」

私   「ミリア、建物を消す事は出来るか?」

ミリア 「はい、設定時間以内の解除も出来ます。」

私   「レイ、全員にシールドを! ミリアは、建物を消してくれ!」

レイは全員にシールドを張り、ミリアは建物を消した。すると、私にでも分かる精霊界以外の生物がそこには居た。

ノイル 「なんだ、こいつら…!?」

そこに現れた生物は、全員が驚く生物だった。無理もない。巨大ミミズのような生物がそこには居た。しかも、目と思われる部分は多数あり赤色の光や黄色の光を放っている。これこそ、悪魔のような存在だ。

ミリア 「私達、ここで死ぬの?」

ミリアが不安そうに言う。

私   「ここで、死んだら精霊界の平和は護れないだろ? 安心しろ。」

そう言って、私は武器を作り出した。武器と言っても、動きを封じ込めるだけ。網目のものをかけて、動きを封じ込めた。

私   「今のうちに逃げるぞ。 こんな奴と戦っている暇は無い。」

ノイル 「そうだな。」

全員で走って逃げた。そして、逃げた先こそが悪魔のような存在が居ると言う場所だった。皆、息を切らしていて水筒の水を飲んだ。周囲には木々以外、何もない。ファルルを見てみると、ギールが指示した場所に間違いない。でも、そこには悪魔のような存在どころか何も居ない。静まり返っている。

私   「ギールが教えた場所。 ここだぞ?」

ノイル 「間違っているんじゃないか? 何も居ないじゃないか?」

レイ  「恐ろしいくらい静か…。」

ミリア 「何か居ます。 あの木の上!」

サシャ 「精霊?」

ミリアの指差す方を見てみると、暗い木の上に何かが居る。その何かは、私達の方を見て、木から降りてきた。そして、私達の方へ歩いてきた。精霊のように見える。

ノイル 「そんな…。 バルト…?」

私   「バルト?」

バルト? 精霊の名前だろうか? 近づいてくるにつれ、その姿は鮮明になってくる。背の高さは、ノイルと同じくらいの高さ。白い髪で長髪。精霊のようには見えるが、何かが違う。

レイ  「バルト? あの行方不明になっている?」

サシャ 「バルト?」

ミリア 「ほら、数ヵ月前に行方不明でニュースに出ていた精霊!」

サシャ 「あぁ~~~…。」

ノイル 「バルトなのか!?」

行方不明の精霊? ノイルとこの精霊は知り合いなのか?

私   「ノイル、知り合いなのか?」

ノイル 「あぁ、行方不明になっていた俺の昔の友人だ。」

バルト 「ギールがお前らをここに案内したのか?」

何かがおかしい。ファルルを見てみると、悪魔のような存在の本体に、バルトが反応している。それ以外に、反応するものは無い。しかも、ギールの事を知っている。

私   「ノイル。 これを見ろ…。」

私は、ファルルをノイルに見せた。

ノイル 「バルトが悪魔だと? バルトは精霊だ!」

バルト 「もう一度、言う。 ギールがお前らを案内したのか?」

バルトが話しかけてくる。私は、その問いに答えた。

私   「そうだ。 ギールが、ここを案内した。」

バルト 「そうか、ふふふ…。 お前らをここで消し去ってやる!」

そう言うと、バルトは攻撃をしかけてきた。私は、レイにシールドを全員に張るよう指示した。バルトの攻撃は、レイのシールドで回避できた。

私   「精霊同士は、争わないって話は嘘だったのかよ!     人間と同じなのか?」

レイ  「精霊同士は争いません。」

私   「だったら、これは何だ? 攻撃してきているじゃないか?     ノイル、あれは精霊だろ?」

ノイル 「精霊だ。 バルトは精霊だ。」

私   「皆、私を騙していたのか? 精霊同士は争わないと…。」

レイ  「それは、違います!」

レイは、違うと言うが現実問題、バルトは精霊なのに我々を攻撃している。

私   「レイ、シールドの強度は?」

レイ  「大丈夫です。人間界とは違い、強度はあります。」

ノイルの昔の友人を攻撃するわけにはいかない。でも、バルトの攻撃は容赦ない。

ノイル 「バルト、何があった!? 攻撃をやめろ!!」

バルト 「ノイル。 誰に向かって指示をしている?」

ノイル 「・・・・・。」

私   「ノイル、バルトに攻撃しても良いか?」

ノイル 「ダメだ! バルトは俺の友人だ!」

精霊同士は争わないのに、目の前で起こっている光景は精霊同士の戦いにしか見えない。こちら側は攻撃しなくても、一方的に攻撃してきている。精霊同士の争いは人間同士の争いとイコールだ。出来れば、戦いたくはない。でも、なんでバルトは攻撃してくる?精霊なのに…。精霊が嘘をついているようには見えない。精霊界にきて、まだ日は浅いが、精霊が嘘をついているようには思えない。

私   「ノイル、悪いがバルトを攻撃する。」

バルト 「貴様、人間界の香りがする。 人間界で育った精霊か?」

私   「・・・・・。」

バルト 「ハハハハハ、図星か…。      ギールも心を読ませないようにしても、人間界の香りまでは      消さなかったようだな。」

何故だ。何故、人間界の香りとかが分かる。バルトは、本当に精霊なのか?

バルト 「人間界で育った精霊ごときに、私を攻撃するなど不可能だ。」

ノイル 「サリア、バルトの発言に乗るな。     バルトは元々、危険な術を使おうとしていた精霊だ。     話せばきっと分かる。」

私   「これが、話して分かる奴か? とにかく、攻撃する。     このままでは、レイのシールドも消えてしまう。」

そう言うと、私は銃を作り出した。ただし、バルトに怪我を負わせる程度で消し去ろうとは思ってはいない。ノイルは、私がバルトを消し去ると思い、必死で私をとめているが、私は聞く耳をもたない。銃口を向け、弾を撃った。が、バルトはその弾を弾き返した。私は、更に速度の速い弾を撃った。弾は弾かれた。

バルト 「そんな攻撃。 当たるとでも思っているのか?」

ノイル 「バルト、やめろ! 何があった!?」

バルト 「ノイル。お前は私の事を友達と勘違いしているようだが、私はお前       を友達だとは思っていない。」

そう言うと、バルトはノイルを狙って攻撃した。レイのシールドが、まるで効果が無かったかのようにノイルを直撃した。ノイルの右腕から血が出ている。レイは、再びノイルにシールドを張った。ミリアは、ノイルの傷を治しにかかった。

バルト 「なるほど。ギールは、素晴らしい精霊部隊をよこしたようだな。      お互いに支えあえる存在の部隊を用意したのか…。つまり、実際に      戦えるのは、人間界の香りがするお前だけか、名前は何と言う?」

私   「サリアだ。」

バルト 「唯一の存在か…。 笑えるな。      その唯一の存在、ここで私が消し去ってやろう。」

私   「・・・・・。 ノイル、これでもバルトは友人か?」

ノイル 「・・・・・。」

ノイルは、何も答えなかった。

ミリア 「そんなに傷は深くないのに、なかなか治らない。」

レイ  「ミリア、頑張って!」

ミリア 「はい!」

ノイルには悪いが、私はバルトを消し去る事にする。ファルルは、バルトを本体としめしている。そして、バルトは攻撃してくる。私は、バルトを敵とみなす。全員が無事にギールのもとへ帰るためには、バルトを消し去らなければならない。私も精霊。バルトも精霊だ。精霊同士の争い。私は参加したくないがやむを得ない。

バルト 「もう、ノイルに用は無い。 サリアよ。 私と戦え。      精霊同士が争わない。そんな訳が無い。      人間界で育った精霊のお前なら、その意味が分かるはずだ。」

レイ  「サリア、精霊同士は本当に争いません。     それだけは、分かってください。」

私   「・・・・・。」

レイは真剣だった。とても、嘘をついているようには思えない。

バルト 「サリア、まずはお前が私と戦う価値があるか試してやる!」

バルトはそう言うと、変な生物を呼び寄せた。地面の中から、それは現れた。ごつごつした岩のような生物。目は赤く、かなり背が高い。私は、対岩用になりそうな銃を作り出し、その生物に弾を放った。一撃で、消し去る事に成功した。

バルト 「なかなか、やるじゃないか。      ギールが戦いに行く事を許可しただけはある。      まずは、サリア。お前を精霊界から消し去ってやる。      そのあと、ノイルも含め一人ずつ消し去ってやる。」

私   「友人を消し去るなんて、よく言えるな?」

バルト 「ノイルは、友達でも何でも無い。」

ノイル 「バルトは、友人だ…。」

バルト 「勝手にそう思っていろ。 その友達にお前は消されるのだからな。」

私は、どうすれば良い。私は、争いたくはない。しかも、相手は同じ精霊じゃないか。

バルト 「さぁ、サリアよ。 もっと、私を楽しませてくれ!」

そう言うと、バルトはまた次の生物を呼び出した。この生物、バルトの思いの力で出てきているのか?出てきた生物は、水と炎をまとっていた。これなら簡単だ。ギールの訓練施設で訓練したようなもの。水は氷らせ、炎は水で消し去る。私は強力な銃を作り上げた。そして、生物の水を氷らせ破壊し、炎を水で消した。

バルト 「サリアよ。その生物は、その状態から強くなるのだ。      ギールの訓練施設のような、くだらない場所で鍛えた力など役には      立たない事を思い知らせてやる!」

確かに、その生物は弱点であるはずの部分を攻撃したはずなのに力を増しているようだ。

バルト 「ハハハハハ…、さぁ、どうする? どうする?」

私は、考えることなく強度のあるものを破壊する銃を作り上げ、その生物に向けて弾を放った。でも、それでなんとかなった。

ノイル 「サリア、お前、強いな…。」

ミリア 「ノイル、喋らないで…。 傷が治るまでは…。」

ノイル 「………。」

サシャ 「サリア、頑張って!」

皆、表面上は戦ってはいないが表面下では戦っている。ミリアは、ノイルの傷を治している。サシャは、私を応援してくれている。ノイルは、友人だと思っていたバルトに裏切られたが、まだ信じている。レイは、不安そうに私を見ている。

バルト 「サリアよ。 こいつを倒す事が出来たら、私が相手をしてやろう。」

すると、バルトは凄い生物を用意した。翼をもつその生物は空を飛べる上に、かなり巨大だ。

ノイル 「そんな…。サリア、気をつけろ。その生物に弱点は無い!」

弱点の無い生物。なるほど、そんな相手に勝てたらバルトは相手をすると言うのか…。面白い。私は、マシンガンを作り出し、生物に向けて撃った。が、その弾は数こそ多いものの威力は無く、生物は無傷だった。そして、その無傷だった生物が攻撃をしてきた。火の攻撃、そのまま直撃したがレイのシールドによって守られた。

レイ  「サリア、シールドが消えました!」

一撃で、強度のあるシールドを消し去る生物。これは、本当にヤバいかもしれない。

私   「レイ、シールドをまた張れるか?」

レイ  「大丈夫です。 シールドは今、張りました。」

流石はレイ。だが、何回もシールドを突破されては、レイもシールドを作れなくなる。なんとか、この生物をしとめなければならない。私が武器を考えていると、生物は空を舞い、私の方に突っ込んできた。私は間一髪、ギリギリでよけた。そして、火炎放射器を作り出し、その生物の翼めがけて放った。生物の翼は焼け焦げ、ボロボロになった。これで、空から攻撃される事は無いが、丈夫な身体を貫ける武器が必要だ。

バルト 「さぁ、どうする? そいつの身体は丈夫だぞ?」

私   「………。」

バルトは余裕だ。弾を撃っても弾かれるのがオチだ。私は、鳥籠を作ってその中に閉じ込める事を考えた。鳥籠を作り出し、生物を鳥籠に入れる事は出来たがすぐに鳥籠は破壊され、生物は出てきた。

バルト 「鳥籠か? 考えたな。      でも、それでは思いの力が消えた時は無意味だぞ?」

確かに、バルトの言う通りだ。思いの力は、精神的なダメージが大きい。それなら、重い塊を上から落とせば、消し去ることは出来なくても気絶をさせるくらいは出来るんじゃないか?私は、重い塊を生物の上に作り出し落とした。すると、生物は気を失い倒れこんだ。倒れこんだ途端、バルトは生物を攻撃し、消し去った。

バルト 「ほぉ、なかなかやるな。 それでは、私が相手してやろう。」

ついに、バルト本人が出てきた。

ノイル 「バルト、やめろ…。」

バルト 「ノイルよ。 お前は本当に、おめでたい奴だな。」

ノイル 「バルト、お前は友人だ。」

バルト 「友達? お前は、友達でも何でも無い…。」

その後も、ノイルとバルトのやり取りは続いた。話は、同じ事の繰り返しだった。その中で、私はある事に気づいた。ノイルは、本当にバルトを友人だと思っている。レイは、本当に精霊は争わないと私に訴えかけてくる。ミリアも、ノイルの傷を真剣に治したいと思っている。サシャは、何も出来ない事を不安に思っている。その中で、心を読む事が出来ないのは、バルトだけだ。バルトが何を考えているのか全く分からない。ノイルの事を友達ではないと言っているが、その友達と言うワードにも何も感じない。もしかすると、バルトは何者かに操られているのではないか?私は、そう思うようになってきた。

私   「ノイル、バルトは本当に友人か?」

ノイル 「あぁ、友人だと俺は思っている。」

私   「ミリア、本気でノイルの傷を治したいと思っているか?」

ミリア 「勿論です!」

私   「サシャ、今、何もできない自分が不安か?」

サシャ 「不安ですぅ。」

私   「レイ、精霊同士、争いはしないよな?」

レイ  「はい、争いません!」

皆、心と発言が一致している。

私   「バルト、本当にノイルは友人じゃないのか?」

バルト 「何度も同じ事を言わせるな。 ノイルは友達ではない。」

やはりそうだ。バルトの心だけ読めない。何者かに操られている。心か?心を操られているのか? だとしたら…。

バルト 「さぁ、サリアよ。 私と戦え。」

バルトは、私を消し去る気だ。

私   「レイ、精霊の心の中に入る事は可能か?」

レイ  「心の中ですか?」

ミリア 「出来ない事は無いです。でも、危険です。」

だいたい、危険の予想はつく。心に入って、そのまま私が消え去ってしまう危険もあるのだろう。まぁ、人間界で中立軍をしていたとしても戦いに身を投じていても死んでいた可能性は高い。ならば、ここで賭けに出るのも良いだろう。私は、バルトの心の中に入る事を決めた。心を操られているのなら、その操っている者を消せば良い。

私   「これが、私の最後の指示だ。」

ミリアだけは、私が何をしようとしているのか気づいているようだった。

私   「ミリアは、建物を建てろ。その中に、皆、避難を…。     レイは、その建物全体にシールドを、それだけだ。」

レイ  「サリアは?」

ミリア 「止めませんよ。止めても聞かないでしょう?」

私   「ミリアは、私が何をしようとしているのか分かっているのか?」

ミリア 「はい。でも、無事に戻ってきてください。」

私   「努力はする。 レイ、私に新しいシールドを張ってくれ!」

レイ  「はい。」

そう言い残し、私は真剣に思った。バルトの心の中に入り込む事を。

バルト 「さぁ、戦え。」

私   「戦う。 だが、バルト、お前とではない!」

バルト 「何…!?」

思いの力が足りないのか、なかなかバルトの心の中へ入れない。やはり、空間移動は難しいのか………?それでも、私は思い続けた。

バルト 「何もしないなら、こちらからいくぞ!」

そう言うと、バルトはこちらに向かってきた。私は、気にせずバルトの心の中に入る事を思い続けた。そして、バルトの攻撃を受ける寸前で、私の身体は不思議な感覚を伴って、精霊界とは違う次元に入り込んだ。ここが、バルトの心の中かどうかは分からない。宇宙に居るような感じで、身体はふわふわとしている。静かな世界だけど、周囲は明るい。丸い物体や四角い物体、色々な物体が飛んでいる。その一つ一つを覗き込んでみると、そこにはバルトが居た。ここは、バルトの記憶の中?いや、バルトの心の中か…。その中には、確かにノイルの姿もある。楽しそうに話していたり、喧嘩をしているような場面もある。確かに、ノイルとバルトは友人だったのかもしれない。友人を信じるノイルと、何者かに操られるバルト。操られた心では、争いが起きてもおかしくはない。だが、その心を操っている者は、いったい何処に居るのだろう?少なくとも、今の私の視界に、それらしきものは存在していない。勢いで、バルトの心の中に入ってきたは良いが、戻る時はどうすれば良いのだろう?本当に、私は消え去ってしまうかもしれない。でも、それでノイルとバルトがまた、友人同士に戻れるなら、それはそれで良いだろう。精霊同士の争いは無い。それが、守られるのだから。それにしても、バルトの記憶も温かいものが多い。それなのに、なんであんなバルトが出てきたのか…。一つ一つ、記憶を覗いているうちに、ついに発見した。明らかに不自然な物体が、そこにはある。操っている者?とても、生物には見えない。大きな球体の半分を覆う黒い物体。まるで、アメーバのような存在。この球体、これがバルトの心の本体なのか?気づかれないようにゆっくりと球体に向かう。が、気づかれた。アメーバのようなものは、こちらに攻撃をしかけてきた。精霊の心の中で武器を使うのは、ありなのか?なしなのか?そんな事を考えている余裕はない。私は、攻撃をさけつつ銃を作った。その銃口を、黒い物体に向け弾を撃ちこんだ。全く効果がない。弾は黒い物体に吸収されてしまった。それどころか、吸収した弾をこっちに向けて撃ち返してきた。レイのシールドのおかげで、なんとか無事でいられる。こちらの攻撃をそのまま返してくるとなると、これはまた厄介だ。攻撃するにも考えて攻撃しなければ、自分の攻撃で自滅するわけにはいかない。黒い物体が、球体をさらに飲み込んでいく。これ、完全に飲み込まれたら、バルト自身も危ないんじゃないか?そう言う考えが、私の中で生まれた。でも、焦りは禁物だ。焦って自滅するような事は出来ない。この球体から、黒い物体をはがす事が出来れば、それは大きな進歩だろう。だが、どうやって?ガムをはがすような感じで良いのだろうか?私は思いの力で、ヘラを作ってみた。そして、球体を傷つけないように黒い物体をはがそうとした。思いの力が足りないのか全く歯がたたない。黒い物体は、びくともしない。失敗だ。球体が傷つかないよう、徐々に弾を大きくして威力を増してみるか…。私は、銃を作り出し、その威力と弾を徐々に大きくして一発ずつ撃ちこんでみた。一発撃つごとに、その弾の攻撃をそのまま返されたが、一発ずつなのでよける事が出来た。それでも、全く黒い物体には歯が立たない。こうしているうちにも、外は大変な事になっているだろう。ミリアの建物もどこまでもつか分からない。レイのシールドも…。ノイルが運よく戦えたとしても、それほど長くはもたないだろう。早く、黒い物体を消し去らなければ…。でも、どうすれば…。油…、油はどうだ?油でなら、はがせるんじゃないか?勢いよく球体に当てても液体だから、それ程、傷つける事も無い。これだ!私は、油を作り出し球体に勢いよくあびせた。すると、徐々にではあるが黒い物体は球体からはがれそうになった。威力を徐々にましていくと、黒い物体は球体から完全に離れた状態になった。離れた黒い物体は、まとまりただの黒い球体になった。そして、それは形を変えて生物の形へと変化した。黒い翼をまとう精霊。いや、黒い翼をまとう悪魔だろう。黒いのは翼だけではない。全身も真っ黒だ。

悪魔   「ギャーーーーーッ!!!!!」

悪魔は叫んだ。鼓膜が破れそうだ。頭に響く声。

悪魔   「私の邪魔をするな。」

私    「邪魔?」

悪魔   「ギャーーーッ!!!」

私    「何が目的だ?」

悪魔   「精霊界を悪魔の世界にする。 それが、目的だ。」

私    「お前が、バルトを操っていたのか?」

悪魔   「そうさ。       あと少しで、バルトの身体と心を乗っ取れていたというのに…。       貴様は邪魔をした。 許さない。」

悪魔はそう言うと、更に形を変え、私の姿になった。黒い私。私の心の闇を見ているようで複雑な気分だ。

私    「何のつもりだ?」

悪魔   「私は、お前が思っている通りの悪魔だ。私には、お前の心も読める。       ギールの術など、私の前では無力なのだよ。       そして、お前が人間界に居た事も、中立軍だった事も全て       お見通しって訳さ…。」

私    「悪魔は、全世界を見ているのか?」

悪魔   「その通り。 バルトと仲間を護りたければ、私を倒す事だな。       さぁ、戦え!」

悪魔だと言う事は分かっているが、自分の姿をしている悪魔と戦うのは、とても苦痛だ。それも、悪魔の狙いなのかもしれない。でも、本物の悪魔と戦うなんて想定外だ。悪魔に有効な武器って、なんだ?

悪魔   「ハハハハハ…。 攻撃も出来ないのか? 悪魔に有効な武器など       存在しない。」

悪魔は、私の心を読み放題と言う事か…。厄介な相手だ。有効な武器が存在しない?だが、昔の話では、人間は悪魔を封印したり、倒したりしている。口から出まかせを言って、私を混乱させようとしているに違いない。悪魔は攻撃してこない。じっとしている。

私    「攻撃してこないのか?」

悪魔   「何もしない相手に、攻撃する価値は無い。」

なるほど、計算高い悪魔のようだ。効果はないと思うが、何もしないよりはマシか…。私は、銃を作り出し、悪魔に銃口を向けた。すると、悪魔も同じ武器を作り、こちらに向けてきた。悪魔の銃は、翼と全身の色と同じ黒色だが、その形は私と同じ武器だ。

私   「同じ武器を作ったのか?」

悪魔  「お前の心を読んで、そのまま同じ武器を作っただけだ。      同じ武器で狙われ、自滅するが良い。ハハハハハハ…。」

なんて悪魔だ。どうかしている。私と同じ姿で、私と同じ武器を使う。互角の戦いと言う事か…。でも、こちらにはレイが作ってくれたシールドがある。そのシールドは透明で、ちゃんと存在しているかどうかは分からない。シールドが存在することを信じて、出来る限り悪魔に攻撃をしよう。私は、作った銃で悪魔に狙いを定め、弾を撃った。悪魔も同時に弾を撃ってきた。悪魔が放った弾は、レイのシールドにより、弾き返された。私の弾は、悪魔に命中したが悪魔には、全く効いていない。

悪魔  「なるほど、シールドが張られているのか…。」

私   「………。」

悪魔  「シールドが見えない分、不安の中、攻撃している感じだな?      そのシールド、見えるようにしてやろう。」

そう言うと、悪魔は呪文を唱えた。すると、レイが作ったシールドが見えるようになった。黄色いシールドが、私を護っていた。

悪魔  「さぁ、そのシールドが消えるのも時間の問題だ。      戦え、そして消え去れ!」

シールドが見えるようになったのは、こちらとしては都合が良い。シールドが消えてしまえば、それなりの戦い方を考えないといけない。私は、更に違う銃を作り出した。普通の弾がダメなら、普通の弾は使用しない。火の属性と水の属性の弾ならどうだ?悪魔も同じ武器を作り出した。そして、私と同じタイミングで、私に銃口を向ける。

悪魔  「一つ助言してやろう。同じ攻撃を自分も受ける事になる。      それを考えて攻撃しないと、自滅するだけだ。ハハハハハ…。      どんなにあがいたところで、お前に勝ち目はないがな。」

この悪魔。何様だ。この戦いの中、助言をしてくるとかありえない。それだけ、自信があると言う事なのか?私は、悪魔に狙いを定め火の属性と水の属性の弾を撃った。悪魔も同時に撃ってきた。なんとか、レイのシールドは消えることなく弾を弾き返した。火の属性の弾と水の属性の弾は時間差で悪魔に命中したが、悪魔にダメージは与えられていない。この悪魔、かなり強い。

悪魔  「ハハハハハ…。今頃、気づいたのか? そう、私は強い。」

私   「………。」

悪魔  「どうした? 負けを認めて、消し去られる事を選ぶか?」

私   「精霊の心を無駄に読みすぎだ!」

悪魔  「それが、悪魔だ。 心を読み、弱みに入り込む。      お前は、私を消し去れるつもりだろうが、それは無理だ。      お前は、私に消し去られる運命なのだ。」

何か、何か弱点があるはずだ。悪魔の弱点。弱点。弱点。聖水。そうか、ただの水じゃなく聖水。聖水であれば、こちらに攻撃が返ってきても痛くもなんともない。悪魔には、有効かもしれない。私は、強力な水鉄砲のような銃を作り出した。聖水と言うものが、どのようなものかは知らないが、とりあえず、悪魔に効果のありそうな聖水を強く思った。悪魔も同じ武器を作り、こちらに向けてくる。だが、その攻撃はこちらには意味は無い。こちらから攻撃する事に意味がある。私は聖水を悪魔に向けて放った。悪魔も聖水をこちらにむけて放った。

悪魔  「ハハハハハ…。これが、聖水のつもりか?      お前、聖水と言うものがどう言うものか知らないだろ?      確かにこの聖水も力が全くない事は無いが、その力は弱い。      こんなもので、私は消し去れないぞ。 残念だったな。」

確かに私は、聖水がどのようなものかは知らない。無謀な攻撃だったか。悪魔に対する武器。他にも何かあるはずだ。聖水以外にも…。光…。聖なる光はどうだ?でも、光。この空間全体を光に包み込むほどの力は私にはない。なばら、特殊な銃を作るか。悪魔の上で弾が聖なる光を放つような…。よし、これでいこう。私は銃を作り出し、弾を放った。素早く弾を撃ったが、悪魔も同時に弾を撃ってきた。心を読める分、どれだけ早く攻撃が出来たとしてもほぼ互角で撃ってくるのか…。弾は悪魔の上で光を放った。

悪魔  「ハハハハハ…。確かに聖水も聖なる光も、お前には無効だ。      ただし、私にも無効だ。こんなのは、ただの光だ。」

私   「そんな………。」

この悪魔。本当に弱点はないのか?少しでもダメージを与えられたら良いのに…。

悪魔  「もう終わりか?」

私   「………。」

悪魔の挑発か…。挑発にのって、むやみに攻撃しても無駄だ。

悪魔  「ほぉ、私の挑発を見抜くとは…。」

私   「お願いです。 弱点を教えてください。」

押してダメなら引いてみる。発想の転換、悪魔に弱点を教えてほしいと丁寧に言ってみた。

悪魔  「ハハハハハ…。だから言っているだろう? 私には弱点は無い。      無いものは、教えられない。」

もっともな答えが返ってきた。

悪魔  「それと、面白い事を一つ教えてやろう。      精霊の心こそが聖なる光のようなものだ。      その光の中で、私が存在していると言う事は聖なる光に、この私を      抑え込むような力は無いと言う事だ。」

なるほど、確かに精霊達の心は温かい。それは、聖なる光のようなものなのか。本当に、私に勝ち目はないのか? 負けてしまうのか…?何か、何か方法はあるはずだ。完璧なシステムにも何処か弱点はある。

悪魔  「それでは、こちらから攻撃させてもらおう。」

そう言うと、悪魔は強い風を送ってきた。その中に、無数の弾のようなものが入っている。レイが作ったシールドは、すぐに消えてしまった。

悪魔  「シールドは、消えた。 これで、お互い同じ状況だ。」

私   「強い………。」

最悪だ。シールドが無い状態では、下手に攻撃できない。それでも、攻撃しないと悪魔を消し去る事は出来ない。それなら、聖水と聖なる光を混ぜたものを浴びせるのはどうだ?少なくとも効果はありそうだ。私は聖なる光を放つ聖水を作り出し、それを悪魔に浴びせた。悪魔も同じように私に、浴びせてきたが私には効果は無い。

悪魔  「聖なる光をまとう聖水か…。何度も言うが、私には効かな…。      な、何故だ。 身体を維持できない。」

効果があったのか?悪魔は、身体を維持できないと言うとまたアメーバのような状態になった。

悪魔  「そんな、身体を球体にする事も出来ない。」

効いたようだ。だが、悪魔はなおも存在している。形を維持できないだけで消え去ったわけではない。あと一歩で消し去れそうだ。私は、もう一度、聖なる光をまとった聖水を悪魔に向けて浴びせた。が、消し去る事は出来ない。

悪魔  「や、やめろぉ~~~!!!」

悪魔は、攻撃してくる事もなく、ただ苦しんでいるだけだ。今のうちに何か消し去る方法を考えないと、元に戻られては厄介だ。それに、私の心を読んで、攻撃してくる余裕はもう無いようだ。こちらからの一方的な攻撃は出来る。でも、どうやって消し去ればいい?そうだ、ウイルス。ウイルスを撃ち込んでみてはどうだ?どう言うウイルスが効くかは分からない。悪魔に効くウイルスと強く思って撃ち込むだけだが、何もしないよりは良いだろう。私は、強く思いウイルスを撃てる銃を作り出した。そして、その銃口を悪魔に向けた。的は大きい。はずしたりはしない。

悪魔  「や、やめろぉ~~~!!!」

悪魔の言葉もむなしく、私はウイルスを撃ち込んだ。

悪魔  「私は、私は強い悪魔なのだ。 私は、私はぁ~!!!!!」

私   「……………。」

悪魔  「お前、何を身体に撃ち込んだ?」

私   「悪魔に効くウイルスだ。」

悪魔  「私は、私は負けないぞ。 消し去られてたまるかぁ!」

- ギャーーーーー! -

悪魔の叫び声と共に悪魔は、跡形もなく消え去った。私が作り出したウイルス。いったい、どのような物だったのだろうか…。さぁ、これで目的は達成した。疲れ切ってしまった。思いの力は、精神的にくる。どうやって、戻れば良いのか分からない。私は少し休憩する事にした。ファルルで、レイにメッセージを送った。

私   『悪魔のような存在は、悪魔そのものだった。消し去る事に成功した。』

レイ  『こちらに居た謎の生物も全て消えました。     バルトは気を失っていますが無事です。』

私   『そうか。それは良かった。通信終了。』

謎の生物は消え去った。そして、悪魔も消え去った。これで、精霊界に平和が戻った。残念だが、私は外の世界に戻れそうもない。バルトの心の中で、私は一人、生きていかなければならないのかもしれない…。目を閉じた瞬間、ファルルにメッセージが入る。

レイ  『通信終了ってなんですか? 戻ってきてください。』

私   『戻り方が分からない。 思いの力も発揮できない。』

レイ  『そんな…。』

私   『精霊界の平和は、取り戻した。 それで、良いだろう?』

レイ  『全員で、ギールさんのもとへ戻ります!』

私   『少し休憩したら、戻れるように努力はしてみる。今は休ませてくれ。』

レイ  『分かりました。』

確かに、ギールのもとへは全員で帰らないと意味がない。でも、私は人間界で育った精霊。私一人が消えても、特にこの精霊界には影響は無いと思うが…。思いの力は、時として凄い力を発揮する。まさか、本当にバルトの心の中へ空間移動できるとは思ってはいなかった。さて、もう一度、外の世界に戻れるように頑張ってみるか。私は最大の思いで、外に戻れるよう思ったが、やはり戻れない。

私   『レイ、戻れそうにない…。 何も起こらない。』

レイ  『諦めないでください!』

私   『通信終了。』

私は、ファルルの電源をきった。これで、終わりか…。精霊の記憶を見るのは、あまり気が進まないが、ここから出られない以上、見ても問題は無いだろう。私は、バルトの記憶をところどころ見てまわった。膨大な記憶の量だ。バルトは、頭の良い精霊なのかもしれない。ノイルとの記憶が多いのは、友人だからだろう。まぁ、精霊の記憶を見ていても何にもならない。私は私なのだから、じっとしていよう。私は、目を閉じた。 少し眠たい。

レイ  「サリア! サリア!」

レイが私を呼ぶ声がする。目を開けると、そこにはレイが居た。あれ…?私は、バルトの心の中に居たはず。寝てしまっていたのか…。でも、なんでここにレイが居るのだろう…。 夢………?

サシャ 「サリア、おかえり~。」

ミリア 「無事で良かったです!」

ノイル 「心配させるな!」

周りを見ると全員、揃っている。起き上がろうとするが、起き上がれない。

ミリア 「じっとしていてください。 今、治療中です。」

私   「あぁ…。 私は、バルトの心の中に居たはずじゃ…?」

ノイル 「バルトが自分で心の中を見て、サリアを見つけ、ここに戻した。」

どうやら、バルトが私をこの世界に戻してくれたらしい。ノイルが言うように、バルトは友人だったのだな。そして、バルトが本当に敵だったなら、私をこの場に戻す事はしなかっただろう。

バルト 「迷惑をかけたようで、申し訳ない。      記憶がないので、それしか言えない。      操られていた事をノイルから聞いた。」

バルトが話しかけてきた。バルトの心を読んだ。本心から思っているらしい。

私   「バルト、ノイルは友人か?」

バルト 「あぁ、友達だ。 古くからの…。」

私   「そうか…。」

バルトも元に戻ったし、精霊界の平和もこれで護られた。それにしても、酷い有様だ。ミリアが作った建物は、ボロボロに崩れている。レイのシールドも消えていたのだろう。あと一歩、私が悪魔を消し去るのが遅ければ皆、死んでいたのかもしれない。

私   「ギリギリで戦っていたのか?」

レイ  「そうですね。私のシールドも完全に消えてしまいましたし…。」

ミリア 「私の建物も強度はあったのですが、この有様です。」

ノイル 「皆、怪我していたんだが、ミリアのおかげで今は無傷だ。      サシャの力で、出発時の状態だしな。あとは、お前だけだぞ?」

私   「私が今、一番、迷惑をかけているのか…。」

ノイル 「そう言う事だ。 でも、感謝はしている。 ありがとう。」

皮肉か? でも、感謝はしてくれた。私のやり方は、間違ってはいなかったのだろう。

バルト 「サリアと言ったな。 何故、私が操られていると思った?」

私   「他の精霊の心は読めるのに、バルトの心は読めなかった。     そこに疑問を感じただけだ。」

バルト 「それだけで、精霊の心に入り込む術を使えたのか?」

私   「あとは、ノイルがバルトの事を友人だと信じていたからな。     強い思いには、色々な要因が重なっている。     思いの力は時として、奇跡を生むのかもしれないな。」