第6話 ゴブリンと漆黒の麗人③ (1/2)

黒猫の能力『森の家』。その10畳程のワンルームにて黒猫と5体のゴブリンがテーブルを囲んでいた。

ゴブリン達の見た目は森の中にいた時とは大きく違い、礼服をぎこちなく纏った清潔感のある身なりになっている。 と、いうのも黒猫がゴブリン達に近づいた際、あまりの悪臭に眉間に皺を刻み。

「まずは、貴様らを洗わなければ吾輩の気がすまん!」

と、風呂場に詰め込んだのだ。 その際、このゴブリン達の肌が黒い為気付かなかったが、かなり汚れていたらしく、浴槽の水が泥沼の様に変わり、あまりの異臭に黒猫が吐きそうになるという事件が起こったが、それは些細な事である。

その後、彼等が着ていた襤褸切れは洗濯機に入れた。しかし、全裸というのも如何なものかと黒猫が思い、自身のバックから5着の紳士服を取り出したのだ。 神の力により、大きさが変わるので採寸はきっちりしているのだが、身丈が低い為に七五三の様な印象を受けてしまう。

だが、馬子にも衣装とはよく言ったもので、見窄らしい印象から一変した事に、彼等の身なりを整えた黒猫は満足気だった。 そして、現在。彼等は酒を精巧なグラスに注がれ、黒猫が作った兎のソテーを目の前にしている。

どれも見た事もない芸術とも捉えられる食事。

この森で一番偉いゴブリンの一族、<ruby><rb>紅族</rb><rp>(</rp><rt>コウゾク</rt><rp>)</rp></ruby>ですら、絶対に食べた事がない物が自分達の目の前にある。 そう思うと腹が減っていても手が料理に伸びなかった。そして、その事を怪訝に思った黒猫は彼等に質問をぶつける。

「……どうした諸君、何を固まっているのだ?吾輩は手料理にはそこそこ自信があったのだが……諸君等の好みに合わなかったかね?」

「い……いえ、俺達ゃいつもそのまんま丸ごと火で炙って素手で食ってんで、こういった事は…………その、俺は昔爺さんに知識として教えてはいるんですが、その経験が無いもんで」

申し訳なさそうに黒猫に言うゴブリンリーダー。その事に納得を覚えた黒猫は優しげな笑みをたたえる。

「いや、すまない。吾輩の考えが至らなかった様だ。何、別に無礼講で良い。吾輩もマナーに対してそこまで自信がある訳では無いからな」

「…………ありがとうございます」「ございやす」「……ざいやす」「やす」「っす」

その言葉に頭を下げるゴブリン達。それに黒猫は顔をあげてくれ、と苦笑するのだった。

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今まで食べた事が無い肉料理や酒を堪能し、現在森で取れた果物で作られた果物ゼリーに舌鼓しているゴブリン達に黒猫は頃合いを見計らい彼等へと話しかける。

「さて、ではここから本題へと移ろうか。吾輩の名は……すまんな吾輩には名前が無いのだった。吾輩の事は『黒猫』と呼びたまえ」

「あっはい、わかりやした……黒猫?様。俺はゴブリンが一族。<ruby><rb>黒族</rb><rp>(</rp><rt>コクゾク</rt><rp>)</rp></ruby>が族長の息子、クグロと申します。一族の中では若頭と呼ばれたりしてますが、そんなに偉くはありません」

そして、自己紹介は進む。クグロとは別の一人の剣持ちヒビセ。槍使いシジキ。弓持ちサザネ。

彼等はあれ程見窄らしい姿をしていながらも一応は黒族の筆頭狩人をやっているらしい。 それだけでも、黒猫は黒族の現状が想像以上に貧しい事を悟る。だが、今回はその様な事は関係ない。 黒猫にとって相手が何者だろうと関係なく、要は森の情報を入手できれば、それに越した事はないのだ。

「そうか、吾輩も様を付けられる程偉くは無いのだが、まぁよい。……さて、今回の取引なのだが吾輩が欲しいのは先程述べたようにこの森の情報だ。森の大きさ。地理、生態系。危険な場所等々の情報を吾輩は欲している」「は、はい。俺達の知っている事であれば……ですが」「構わんさ」

鼻先で指を組み、前のめりの姿勢になる黒猫。とは言ってもガチガチの軍服を着ているので胸を寄せた体勢になろうが全く色香が無いのだが。

もちろん、クロミツはそんな事を微塵も考えていないので話はスムーズに始まる。

まず、一つ目の質問。この森の大きさについてなのだが、実は彼等。この黒猫の住む場所にすら始めて来たらしく、ましてや森全体など、わからないとの事。 黒猫はこれには少しガッカリしたが、表面ではそんな素振りを見せずに次の質問へと移る。

二つ目の質問、地理。これは彼等も分かっている様で、ちゃんと黒猫に答えた。 この辺りは高低差が少なく、凶暴な肉食獣もそこまでいない為、果実や食肉が比較的に良く取れ、下級、中級に含まれるゴブリンの多くがこの辺りに集落を築いているらしい。

「俺らがここらに住んでいねぇのはその下級にすら含まれてない最下級ゴブリンだからです」

彼等、黒族も元々はこの辺りに集落を築いていたらしいのだが、他のゴブリン達の時に殺されかねない程苛烈な迫害にあい、拠点を移したそうだ。

原因が迫害となると、必然的に黒族以外のゴブリンがいない場所となる。 そして、黒族が辿り着いたのがこの森でも凶暴な魔獣の縄張りだ。 魔獣側もゴブリンの肉が不味いをの知っているゆえ下手に手を出さない限り襲っては来ない。