第257話 ひと足お先に、鬼は外。 (1/2)

ケミカル・バリアが解除されると全員が息を吹き返した――

「ふう。死ぬかと思った」

「珠美姐さん、お役に立てずに済みませんでした。でも、元通りになって良かったです」

「こんな兵器が開発されていたとはな……」

「和樹ちゃんも力だけでは勝てないって事が良く分かったでしょ?」

「あぁ。強い者が生き残る訳では無いのだな……」

南方は解放されたマックスを抱き締めた――

「マックスっ! 大丈夫か?」

「ショチョウ、ボクノタメニ、オオキナ、ギセイヲ、ハラウコトニナリ、モウシワケ、アリマセン……」

「大丈夫、お前が無事ならそれで良い……うーむ、首から胸の回路がショートしている様だ、後で直してやるからな」

「ショチョウ、アリガトウ、ゴザイ…マス」

南方とマックスの間には互いに思いやる感情が生まれていた。珠美はそっと<ruby><rb>八咫鏡</rb><rp>(</rp><rt>やたのかがみ</rt><rp>)</rp></ruby>を覗くと、そこには幸せそうな笑顔を浮かべる南方とマックスが映っていた――

「どーして、神や人間には思いやりの心が持てないのかねぇ」

「珠美。南方武は人間を思いやる気持ちが強過ぎただけよ。その結果、憎しみが恨みとなって国譲りの野心が芽生えて行ったの……」

「めぐみちゃん、此れで一件落着だ。皆で一緒に帰ろうよ。それから、何処か気の利いたお店で打ち上げでもどう?」

「…………」

「何、黙ってんだよ。駿さんは気が利くわねぇ。ついでに、私は和樹様と一緒の席でシクヨロっ! きゃはっ!」

「めぐみさん、先程、改めて南方と契りの握手をした。もう、これで心配する事は無い。帰るとしよう。はっはっは」

「珠美姐さん、私はコレで。御一統さん、お先に失礼致します」

ダイダラボッチはそう言うと、すぅ―っと大地に消え入った――

「なぁーんだ、帰っちゃうのか。一緒に飲みたかったのになぁ‥‥」

「駿さん、彼奴はさぁ、身の程を弁えているから。神様と一緒の席には座らないんだよ」

「仁義の人なんだね……」

和樹の腕に抱き付きベッタリな珠美と駿の後ろ姿がW・S・U・S本部から消えても、めぐみは、ひとりその場から動かなかった――

「鯉乃めぐみ、まだ何か用が有るのか?」

「えぇ」

「私は<ruby><rb>八岐大蛇</rb><rp>(</rp><rt>ヤマタノオロチ</rt><rp>)</rp></ruby>プロジェクトも、レプティリアンも失った……国譲りはもう諦めたのだ」

「いいえ」

「何?」

「残念だけど、あなたは諦めてなんかいないわ」

「どういう意味だ?」

「あなたの中には未だに野心が燻ぶり続けているの」

「そんな、馬鹿な」

「<ruby><rb>八咫鏡</rb><rp>(</rp><rt>やたのかがみ</rt><rp>)</rp></ruby>にも映らない、あなたの心の闇よ」

「……見えるのか?」

「えぇ。だから、この私が、その野心を始末してあげるわ」

「何をするっ!」

めぐみはブライト・ソードを抜くや、南方の心臓を一突きにしようとした――

「ショチョウ、アブナイ!」

「マックス!」