第103話 叛逆の意志③ (1/2)

先手を取ったのはジークだった。 桜色に光るヒロの剣を、雷を纏いし聖剣で叩き斬る。

「っ!?」

「お前は勇者じゃない。モンスターだ!!」

心身を憎悪で染め上げたジークの一撃は重かった。 雷鳴のように強く踏み込み、雷光の速度で刃を振るっていたのだ。 堅牢なプロキアの城壁すら破壊する勢いでヒロを吹き飛ばし、埃と煙の立ち込める空中へと追いやった。

「いい加減にしろ!」

「それは僕の台詞だ!!」

ヒロも抵抗しようとするが、宙にいるため力が上手く入らない。 そのままジークに押し負ける形で急降下し、時計塔の腹部に吹き飛ばされてしまった。

「ジーク、お前……!」

<ruby><rb>絆ノ装備</rb><rp>(</rp><rt>ブルームフォーム</rt><rp>)</rp></ruby>のおかげで、落下によるダメージは大して入っていない。 だが土煙によって視界が塞がれ、そしてジークに上を取られたのがいけなかった。 振り上げた聖剣に黄金の雷が走り、天も正義の一撃へ味方せんとばかりに黒雲を広げていた。

「正気か!? そこまでして」

「<ruby><rb>雷霆</rb><rp>(</rp><rt>ライディーン</rt><rp>)</rp></ruby>ッッ!!」

その斬撃は町を割った。 放たれた<ruby><rb>最終奥義</rb><rp>(</rp><rt>カラミティスキル</rt><rp>)</rp></ruby>は金色の光を放ち、逃げ遅れた人々を炭に、灰に、そしてマナに還した。 その中心に居たヒロの身体にも、痛みと誇張するには生温い程の衝撃が走る。

「……これが、僕の覚悟だ」

太陽を集めたような輝きが収まると、ジークは失った魔力を補給するため故郷のポーションを口にする。 そして見下すと、桜色のモンスターは黒い炭と化して動かなくなっていた。 これが人類の敵のあるべき姿だと再認識し、思わず笑みがこぼれる。

「兄ちゃん!」

声のままに正義の勇者が振り向くと、不細工なヒノワ人から逃げるようにして愛する妹弟が駆け付けていた。

「ジーク、アンタまた無茶して!」

「ここは危険だから離れてて。この国は僕が守る」

「昨日休めって言ったばっかだろ! ヒロとウォルター様にも任せて、あんまり無理しないでくれよ!!」

「そうだ、ヒロ……ッ!?」

ジークは仕留めた獲物にトドメを刺すべく向き直した。 だがそこにあったのは、殺意を込めて裏切りの勇者を斬り伏せんとするヒロの姿だった。

「っ、この化け物が!」

「ヒロやめて! 相手はジークよ!」

「やっと追いつい……ヒロ、よもや裏切ったのでおじゃるか!?」

一部分しか見ていないエリーゼとモリモリが、ボロボロの身体を再生させている転生者に向けて叫ぶ。 だが、一番歳若く騒がしいはずのクルトだけは違った。

「……兄ちゃん、今なんて」

「クルト、エリーゼ。ソイツは敵だ、危ないから離れて」

「ヒロは化け物じゃない! 友達にそんなこと言ったらダメだろ!!」

クルトはかつて、ミライに向けて「化け物」と言い放ったことがあった。 そして酷く後悔した。ずっと助けてもらい、笑い合った仲間に最低な言葉を放ったことを。 そのときの傷があるからこそ、兄に向けて懸命に叫んでいた。

「誰が化け物と友達なんだ。ソイツはモンスターだ!」

「モンスターでも! マオは良い奴だろ!!」

絶対に折れない。 クルトの瞳には、憧れの兄にも立ち向かわんとするほどの勇気が宿っていた。

「……お前も頭がおかしくなったんだな」