137.蜘蛛の巣と膨れる腹〜ミハイルside (1/2)

「た、たすけ、て……あに、うえ……」

かすれた声で助けを求める男は、十字架にかけられたような格好できらめく半透明の巨大な蜘蛛の糸に絡み取られている。

息を吸う度にヒューヒューと喘鳴音が喉から鳴り、兄と同じ艶のあったミルクティー色の髪は泥にまみれて見る影もない。汗と涙を流しながら必死に助かりたいと訴える顔に貼りついて憐れさを誘っている。

兄にすがるのは言わずもがな、エンリケ=ニルティだった。

<ruby><rb>鳩尾</rb><rp>(</rp><rt>みぞおち</rt><rp>)</rp></ruby>から腹にかけて現在進行系で不自然なほど大きく膨れ上がっていっている。

俺達は対面に立ち、蜘蛛の巣の真下には黒い煙をあげて炭化した巨大な蜘蛛型魔獣の残骸がある。その後ろ側にはムカデらしき残骸もあり、いくらか食い散らかされている。

恐らくだが滅多に手に入らない人間の餌を巡って争い、蜘蛛が勝ったんだろう。

あの息をのむ程の大きな魔力を感知してから、すぐに消えた魔力の一団から分かれた魔力を追いかけた。

ピタリとそれが止まったのは比較的直ぐだ。近くに魔獣らしき魔力も感知し、嫌な予感がしつつも急いだ。

次第に夜が明けていき、視界が開けていくお陰で進む歩みも速くなっていった。

ふと遠くに朝日に照らされて光る何かを見つけ、嫌な予感がしつつも近づく。

そこで蜘蛛型の魔獣に襲われた。

だが索敵魔法は常に展開していたから、俺達が遅れを取るはずもない。

まずは第1王子であるレジルスの火属性の魔法で一気に炙り、俺の水属性の魔法で脆くなった殻を捻り潰した。

あの暴発するかもしれない、サクサク切れる短刀は使っていない。

どうでもいいが、この2人とパーティーを組む間は普段と違って肩書きや家名ではなく、なるべく名前で呼ぶよう厳命されている。小さな事だが、結束を図りたいという意図らしい。