357.ヤバい犯罪臭〜ナックスside (1/2)

「拐ったとは、人聞きの悪い」

もちろん上位神官として、王子の発言は肯定できない。

「あの温室は元々、誰からも見えないように条件付きの結界魔法で囲われていると聞いています。私も目にした事がありません。王子は初めてあの庭園に足を運んだからご存知ないようですが、他の王族方に確認されればわかる事ですよ」

そう、あの温室を目にする事ができるとすれば、教会では猊下のみ。

「それに温室に入る事は許可がなければできません。何かが作動したなどという話も、これまでに聞いた事がない」

しかし許可を与えたのは、今の猊下ではない。あの庭園を造った時の誰か。

恐らくはその当時の教皇猊下か、もしくは当時王太子であった、先代の国王。

もちろん私の予想に過ぎないけれど。

そもそもあの庭園は、移民によってもたらされた流行病が、王都に蔓延しつつあったのを見事、当時の教皇猊下と、かの王太子によって終息させた記念に造られたと聞く。

反目し合う王家と教会が手を取り合って成した、数少ない偉業だ。

流行病という恐ろしい病が猛威を振るいかけた際、いち早く行動した2人は被害拡大を防いだ。

そればかりか病にかかり、死の淵にあった国民と流民のどちらをも、教会奥、つまりあの庭園のある辺りに招き入れ、看病して終息させた。

そしてすぐにかの王太子は、当時の教皇猊下と協力し、その病の特効薬をも製造した。その上で予防法までも確立し、他国への薬の普及と並行してそれを周知する。

この国と教会が、他国から一目置かれている理由の1つだろう。

それから暫くして、あの稀代の悪女は国民の命など知ったことかとばかりに、病気が蔓延していた間、城から1度も出て来なかったという噂が広まったとか、いないとか。

現在の猊下に聞いた事があるが、それは噂に過ぎないと一蹴された。

どちらにしてもあの稀代の悪女とは、半分でも血が繋がっているなどと信じられない程に、慈愛と正しい行動を取れる光の王太子だったのだろう。

「しかし実際に公女は結界に捕らわれ、その場からも居なくなった」