№63・生きているパペット・1 (1/2)

「うわぁ……!」

目を開いた先にある光景に、キーシャが感嘆の声を上げた。

『レアアイテム図鑑』によって転移した場所は、蒸気が上がり石炭が燃えるにおいがする、産業革命時代のような大きな駅舎だった。着飾った紳士淑女があちこちでトランクを荷物室に預け、物売りがパンや飲み物を声高らかに売っている。

車掌がせわしなく行き交うなか、キーシャは目を輝かせながら辺りを見回した。

「すごいすごいすごいですー!!」

「ウワサには聞いてたけど、これが蒸気機関車ってやつかぁ」

「まさに文明のちからだな」

「キーシャ、線路に落ちんようにの」

一行の前にはもうすぐ発車するであろう蒸気機関車がもうもうと煙を上げてたたずんでいる。以前、蒸気機関車は王都の付近にしか線路が敷かれていないと聞いたが、ここは王都の駅なのだろうか。

「まあ、レトロでいいんじゃないですか?」

「レトロ!? これがレトロなんですか!?!? 南野さんの元いた世界ってどれだけすごいんですか!?!?」

「いや、毎日毎日ぎゅうぎゅう詰めで職場まで社畜を運ぶ苦役列車ですよ……ひとが死なないのが不思議なくらいでした」

遠い目をして通勤ラッシュを思い出す。今から思えば、よく毎日耐えられたものだ。

それに比べてこの蒸気機関車の優美さと言ったら。客車に施された彫刻といい、金具の真鍮の輝きといい、先頭車両の立派さといい、現代日本にあったら鉄道マニアが押し寄せること間違いなしだ。

「どうやって動くの? これ」

「それはですね! 石炭を焚いて水を熱して、水蒸気になった時の膨張エネルギーを蒸気機関に送って、ピストンに伝えて車輪を回して! それから!」

キーシャが発奮しすぎている。このままでは今回の目的が果たせないかもしれない。

「説明はその辺にしておいて。今回の獲物……『生きているパペット』ですけど、この列車に乗って行きついた先にあるんですかね?」

南野が話題を転換すると、メルランスがうーんとうなった。

「だったら最初っからその場所に転移すると思うんだけど」

「また結界っちゅうやつかのぅ」

「だとしても、蒸気機関車に乗れというのはおかしくないか?」

「駅舎になにかあるのかもしれません! もう少し詳しく……」

キーシャが言いかけたとき、蒸気機関車が汽笛の声を上げた。もうすぐ出発らしい。選択をせかすような声に、南野は直感で決めることにした。

「乗りましょう。行ってみて、なにもなかったら帰ってくればいいだけの話ですし」

「だね」

全員が南野の意見に賛同して、切符を買うとそのまま蒸気機関車に乗り込んだ。

木造の客車は個別に客室があるらしく、切符の指定席までたどり着いて扉を開くと、大きなガラス張りの窓から動き出した景色が見えた。ゆっくりと駅を離れ、蒸気機関車は徐々にスピードを上げていく。

「わぁー! ほんとに動いてる!! すごいです!!」