№63・生きているパペット・1 (2/2)
早速キーシャが窓に張り付いた。そんな微笑ましい様子を眺めながら、南野たちは革張りの客席に腰を下ろす。
「こんなでっかい乗り物が、鉄の道をすごいスピードで走るなんてね」
「魔法が使えないものにも短時間での長距離移動が可能というわけか」
「ワシ、こんなお出かけ初めてじゃ」
しきりにすごいすごいと連呼しているキーシャの声をBGMに、物珍しそうに窓の外を見やる面々。南野としては、鉄道グッズを蒐集していたときのことを思い出して、そのころ来ていれば垂涎ものだったな……と考えていた。
列車は森を抜けて、山の峡谷に入る。鉄橋を渡り、トンネルをくぐり。この世界の技術では作るのは相当に大変だっただろう。普段何気なく電車を利用していた南野にとって、なかなか新鮮な体験だった。
キーシャも少し落ち着いて、のんびりと旅を楽しむ雰囲気になったので、南野は席を立って皆に言った。
「この蒸気機関車、行き先がどこなのかちょっと聞いてきますね」
車掌でも捕まえればわかるだろう。怪訝そうな顔をされるだろうが、今回の目的地がどこなのかは知っておきたい。
客室の扉を開き、きょろきょろと車掌を探す。検札に来てもいい頃合いなのに、どこにも見当たらない。
ふと、他の客室の扉が開いているのに気付いた。何の気なしに中に目をやると、そこにはぬいぐるみが客席に並べられていた。
子供のいたずらだろうか? 少し不思議に思いながらも車掌を探していると、また開いている客室があった。
中を覗いてみると、そこにもぬいぐるみが並んでいた。
さすがに不気味に思えてきて、南野は客室のドアを片っ端から開いていった。
ぬいぐるみ、ぬいぐるみ、ぬいぐるみ……色とりどり、種類も様々なぬいぐるみが、どこの客室にもみっしりと詰まっていた。人間はひとりも見当たらない。
ことの異常さを実感して、急いで仲間のもとに戻ろうとした南野だったが、不意にぬいぐるみたちの虚ろな目が一斉に南野に向けられた。
「……!」
ひとりでに動くぬいぐるみたちは、めいめい手にナイフやハンマー、ノコギリやハサミ、アイスピックやかみそりを持って南野に襲い掛かってきた。
あわてて扉を閉めて遮断すると、南野は仲間たちの客室へと全速力で走った。
「み、みなさん!!」
「え? なに? 車掌見つかったの?」
「違うんです! ぬいぐるみが!!」
「ぬいぐるみ?」
後ろ手に閉めた自分たちの客室のドアが、ばん!と叩かれる。ぎりぎり、削ったり切りつけたりする音も聞こえてきた。
南野がしどろもどろにことのあらましを説明すると、最初は半信半疑だったメンバーも次第に険しい顔になる。その間にも扉をかきむしるような音が鳴りやまなかった。
「……今回の獲物、『生きているパペット』の仕業かもね……」
「なるほど、行き先ではなくこの蒸気機関車自体が目的地だったということか」
「冷静に言っとる場合か! この扉破られたらタマ取られるぞ!」
メアの言う通り、もうすぐ扉は破られそうだ。みしみしときしみながら内側に大きく膨らんでいる。この蒸気機関車の客室すべてにあの数のぬいぐるみがいるとしたら、超大量のぬいぐるみになぶり殺しにされるだろう。